『総合百科事典ポプラディア第三版』ができるまでの道のりを関係者に聞く連載です。全体の統括を担当した、こどもの学びグループ 開発ユニットのユニット長・山口竜也、編集実務的に全体をまとめてきたマネージャー・田之口正隆のふたりが話す回の後編となります。前半はこちら。
――百科事典を作るには、内容以外のところも考えなければならないですよね。重さについてはかなり早い段階から検討をはじめていましたし、UDフォントを導入すると決めてからも、何度も細かな修正をして、やっと「これだ!」という形になった時のことはとても印象に残っています。
山口 「百科事典は「新訂版」でやりつくしたと思っていました。もちろん、内容面では新しいものに変えていく必要がありますが、正直、紙の百科事典としての大幅な見た目や機能の向上などはないと思っていたんです。ただ、「第三版」をやるなら何かできることを探して取り組みたいとは思っていて。そのなかでいろいろなデザイン変更、リンクの追加などの修正要素が出てきました。
結果として、紙面のデザインが思った以上に読みやすくなったことが、最も印象的です。これまでの「ポプラディア」と比べてみれば歴然としていて、「旧版」と「新訂版」を比べると「新訂版」のほうが見やすくなっていますが、それと比べても「第三版」は相当、見やすいものになりました。フォントを変えたのもありますし、デザインひとつをとっても、ここまで工夫の余地があったのかと思わされました。紙の百科事典でできることは、これ以上はできないというくらい、やりつくしたと思っています」
インタビューを受ける、こどもの学びグループ 開発ユニット 山口(右)と田之口(左)
田之口 「紙面フォーマット作りの時は、最初はUDフォントの教科書体、明朝体、ゴシック体の3種類で紙面を出力し続けていました。社内で話し合った後に、デザイナーに依頼をしてデザインを組んでもらう。今回採用しているフォントを作っているメーカーのモリサワの方の話で印象に残っているのが、単にUDフォントを使えば良いわけではないということ。全体のバランスで紙面が見やすくなるのであって、ルビの大きさ、行間、行数など、すべての工夫があって、読みやすい紙面が出来上がる、と。実際、僕たちも、単にUDフォントを採用するだけでなく、紙面のバランスなどいろいろな試行錯誤を経て、見やすいと実感できるものを見つけることができました。当時、僕が書いた手書きのラフを最近また見てみたんですが、生物に英語表記を入れるという案があったり、NDCの入れ方が今と違うかたちになっていたりして、面白かった。「第三版」の出来上がりとは、全く違うんですけどね」
――何年にもわたる準備と編集作業を経て、2021年11月に「第三版」が世に出ました。最初から最後まで、編集にかかわった立場として、いつ「終わり」を感じ、また「終わり」を迎えたときにどんな思いがありましたか。
山口 「校了したタイミングで、終わったと思いました。ほっとした、辛いのが終わったと思うことはなくて、淡々としていましたね。私にとって百科事典を作ることは、ジグソーパズルを作るのととても似ています。出来上がった時に一番うれしいかといわれると、そうではなくて。当てはめている時が、一番楽しい。登山のように登り終えた時の達成感を目指して歩くのとは、違う感覚なんです。なので、作り終わった時の感覚としては、終わりましたと、それだけです」
田之口 「本編が校了して学習資料集の作業をしている時くらいから、だんだんと危機感が少なくなっていくという感じでした。終わるというより、「これで発売日が守れるな」という感覚です。発売日は2021年11月ですが、安堵し始めたのは2021年10月頭くらいだから、校了直前ですよね。本当はもっと数カ月前から安堵している予定だったのに…。すべてが校了したのは、10月16日の夜中、23時過ぎのことでした。でも、その瞬間に「気持ち良い!」という達成感がやってきたということはなくて。関係者の方々にメールで連絡をした時、外部で校正をお願いしていた会社の社長から返信をいただいて、その言葉がとても僕の気持ちにぴったりでした。それは
「全巻校了されたとのこと、本当にお疲れ様でした。発売も予定通りということで、職責もしっかり果たされ、おそらくホッとされているのではないでしょうか。」
というもので、これこそ、終わった時の本当の気持ちでした。
今回、「第三版」を作る上で、山口さんは「こういうものを作りたい」という気持ちが強く、僕は「作り終わらなければならない」という気持ちが強かった。そんなところに違いがあったと思います。発売日を守ることができるのか、一番危機感があったのは本編、つまり索引と学習資料集を除いた「あ」から「ん」までの16巻分の校了作業のときです。正直、「間に合わないかも」と思っていました。書籍は刊行が遅れることがよくあるのですが、今回の「第三版」は発売日が決まっていて、取次関係、プロモーション関係、ほかにもいろいろな人が動いていて。発売日は絶対に守らなければならない、編集の作業でここを崩してはならないと、強く思っていました」
――「第三版」は印刷され、製本されて、世に出ていきました。これから10年ほど、この「第三版」はこどもたちが使い続けることになります。どのように受け取ってほしいと思っていますか。
山口 「学校での百科事典の活用を促すための施策もいろいろやっていたんですね。「新訂版」を使った授業案を作っていくなかで、「パラパラ読み」というアクティビティがありました。パラパラと百科事典をめくって好きな項目を探す、とても簡単なアクティビティだけれど、見学に行った学校で、こどもたちがとても楽しんでいた姿が印象に残っています。自分のこどもの頃を思い出しても、調べるために百科事典を読むことはありませんでした。百科事典は、やみくもに見ていくと、とても楽しい、面白いものを発見できる。「ポプラディア」もそういった親しみ方をしてもらえたらいいなと思っています」
田之口 「作り手としては、「第三版」で学習してほしいとは、あまり思っていません。楽しんだ末に、得るものがあれば良いと思っています。同封してある授業案やアクティビティにしても、表紙や中身にしても、すべてに、そのための工夫をしているので、ただ楽しんでほしいです」
インタビュー:株式会社ポプラ社 開発ユニット ユニット長・山口竜也
マネージャー・田之口正隆