「第9回ポプラズッコケ文学新人賞」にご応募くださいました皆さま、誠にありがとうございました。今回からウェブ応募も採用いたしましたが、結果昨年よりも多くの方から作品をご応募いただき、総数207編となりました。
その中から、11作品が2次選考へと進み、11名の選考委員が選考にあたりました。議論を重ねた結果、最終選考に4作品を選出いたしました。
そしてこのたび、最終選考にて、特別審査委員の那須正幹先生と16名の選考委員からもっとも評価の高かった、小川雅子さんの「ライラックのワンピース」が大賞に選ばれました。
「ライラックのワンピース」は、小6の〈裁縫少年〉トモが、少女リラの大切なワンピースのお直しをきっかけに、さまざまな人の想いに触れ、自身の将来についても見つめなおす、あたたかな成長物語です。今後の活躍を期待して、ポプラ社よりデビューしていただきたいと思います。
また、今回より新たに「編集部賞」を設けております。応募作品は粗削りであっても、これからの子どもの本の書き手としてキラリと光る個性を持った方を選び、編集者が担当につかせていただきます。議論の結果、今回は最終選考に選出された「ラスト・コール」を編集部賞とさせていただくこととなりました。最終選考に選出された他3作品と合わせまして、後ほど選評にて触れさせていただきます。
今回の大賞受賞者である小川雅子さんは、過去にもポプラズッコケ文学新人賞の最終選考へと残った作品がありました。その際は「完成度は高いが大人の物語で古びれた印象。もっと子どもが主体的に動く物語にしていただきたい」との評価でした。その課題をご自身でとらえなおし、見事今回受賞となりました。
子どもが主体的に動く物語というのは、児童文学である以上は絶対に必要な要素です。そのうえで、どんな子どもを描きたいのか。その子ども像は、大人の理想になっていないか。ぜひ応募原稿をお書きになる際には、考えていただけたら幸いです。「ズッコケ三人組」シリーズの主人公たちは、つねに自分たちが考え、ときに大人の思惑を超えた行動で読者の子どもたちの心を晴らし、熱狂的な支持を集めてきたと思います。
もうひとつ意識していただきたいのは、新人賞が求めるのは、技術の高さよりも、新しさだということです。
その点、選考員を沸かせたのは、二次選考まで進んだ2作品「カメムシマン」と「君の涙を拾いに来た」でした。前者は人の悪口ばかりを喋るカメムシが大量発生するという奇想天外な設定のもと、パニック小説さながらに人間たちが翻弄される物語で、強いインパクトを残しました。後者は、真珠を探し続ける謎の転校生との交流を描いた物語で、今らしい個性的なキャラクターづくりと作品を流れる神秘的な空気の独自性を評価する声があがりました。いずれも完成度の点で課題が残り、最終選考には選出されませんでしたが、新鮮な出会いとなりました。
今の時代だからこそのフレッシュな視点、切り口に出会えるときこそ、新しいエンターテインメントが生まれる瞬間と思います。既存の作品ではまだ語られていない唯一無二の魅力をぜひ考えてみてください。
今後もみなさまからの力作のご応募を心よりお待ちしています。
大賞 副賞100万円
子どもを育てながら家でできる仕事はないか――。
物語を書く人になりたいと志したときから四半世紀。赤ちゃんだった娘たちはすっかり大人になり、私は月刊誌の編集を通じて取材や対談記事作成などの仕事を得ています。「仕事」も「書く」ことも手に入れたはずなのに、それでもやっぱり、しぶとく、じたばたと、物語を書き続けています。
この体験はネタになるぞ!
この悲しみは私の血肉となり、文章に厚みを持たせてくれるはずだ!
人生の苦楽は物語を紡ぎだすモチベーションとなり、これからも私は“書くこと”を通じて人生を楽しんでいけそうです。
那須正幹先生、ポプラ社の皆様、私の物語に心をとめて下さって、本当にありがとうございます。そして、家族や仲間たちにも心からのお礼を。ようやく入口に立つことができました。
世界は広く、不思議なものや美しいもので満ちています。
子どもたちがキラキラした目で世界を見渡せるような、世界に一歩踏み出すきっかけとなるような、そんな物語を書き続けていけたら嬉しいです。
このたびは本当にありがとうございました。
裁縫が好きな〈裁縫少年〉の小学6年生トモの物語。仕立て仕事をする祖母が身近にいたことから裁縫好きとなったが、その祖母が3カ月まえに亡くなり、クリーニング店を営む祖父も消沈している。そんなある日、祖母の部屋でお直しの必要なワイシャツを見つけたトモは、とれていたボタンをつけ、祖母の「業務日誌」を手がかりに持ち主をたずねる。そこで出会った少女リラの、亡くなった母から譲り受けた青いワンピースを直すことになるが……。
修学旅行から帰ると、主人公の「ぼく」・鈴木和隆の住んでいた街から人が消えていた。残ったのは、同じバスに乗っていたヒロ、牧野、山添くん、山崎さんだけ。違和感を覚えながら、誰もいない家で一晩を過ごしたぼくは、翌日家族に再会できたと聞いた山崎さんが今度は忽然と姿を消してしまったことを知る。ひとり、またひとりと消えていく仲間たち。押し黙った街で起こる恐怖の体験と真実を探し求める子どもたちの活躍を描くサスペンス。
応募総数207編。
1次選考の結果、以下の11編が2次選考に進みました。
タイトル名 | 著者名 | 2次選考通過 |
---|---|---|
夏空の羅針盤(コンパス) | このゑなおる | ● |
ミーツ!! | 麻野ヨウ | |
あぶらボールしっけボール | 大山きいろ | |
少年探偵団ST5対怪盗ジグソーJr | まさてる | |
ぼくとアヒルの終わらないミステリー | ブロッコリー | |
ラスト・コール | 船郷計治 | ● |
うたう森~終わりある世界に甘いのが好きなんだよとふわふわは言った~ | けいまさこ | ● |
カメムシマン | 中川鈴野 | |
ライラックのワンピース | 小川雅子 | ● |
君の涙を拾いに来た | 花見英 | |
ホームグラウンド | 中浜としゆき |
※応募受付順、敬称略
2次選考では、11名の編集者が11編の作品すべてを読んだ上で議論を戦わせ、4編を最終選考に進めることとなりました。
最終選考は、特別審査委員の那須正幹先生及び弊社社長、児童書事業局局長、児童書事業局編集部部長、児童書事業局営業企画部部長、12名の編集者で行いました。