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ポプラズッコケ文学新人賞

第8回

受賞作品

第8回ポプラズッコケ文学新人賞

 「第8回ポプラズッコケ文学新人賞」にご応募くださった皆さま、まことにありがとうございました。

 今回は、総数148編のご応募をいただきました。その中から、10作品が2次選考へと進み、11名の選考委員が選考にあたらせていただきました。結果、最終選考に4作品を選出いたしました。

 最終選考に進んだ4作品は、特別審査委員の那須正幹先生と、16名の選考委員が読ませていただきました。ジャンルやテーマなど、カラーのちがう4作品がそろいましたが、それぞれに大きな課題があり、選考は難航することとなりました。

 いずれもどこか既視感を抱かせるものであること、独自の新しい魅力や読み手を惹きつけるパワーの欠如などが指摘され、長時間の協議の結果、今回はまことに残念ながら、大賞該当作品はなしとし、一番得票数の多かった「チームヌシへようこそ」を佳作とさせていただきました。詳しくは、講評をご覧いただければと思います。

 非常に残念な結果となりましたが、このポプラズッコケ文学新人賞は、「ズッコケ三人組」シリーズのように、子どもたちを心の底からわくわくさせ、その世界を広げてくれるもの、心を豊かにしてくれる作品を、作家として書き続けていってくださる方を見つけだすことが使命であり、そんな方にこそ大賞を受け取っていただきたいと考えています。だからこそ、次回の応募を検討してくださるみなさまには、ぜひご一考いただきたいことがございます。

 作品にオリジナリティを持たせようと考えるとき、キャラクターの設定を安易に悲劇的にしたり、特殊な環境を与えることに苦心し、本賞が大切にしている、物語のなかで子どもたちがいきいきと動いているかどうかという視点を忘れてはいないでしょうか。また、問題解決のために都合の良い大人のキャラクターを登場させ、子どもたち自身の気づきや成長を描くことがおろそかになってはいないでしょうか。大人目線でのノスタルジーにひたるのではなく、みなさんが子どものころに感じたように、その作品が心からわくわくできるものになっているでしょうか。

 ポプラズッコケ文学新人賞は今後も、子どものための物語を書き続けていっていただける熱意ある方との出会いを楽しみにしております。ぜひ次回も、みなさまからの力作のご応募をお待ちしています。

大賞 該当作品なし
佳作 「チームヌシへようこそ」副賞20万円

講評

総評

 今回最終選考にのこった4編は、残念ながら積極的に推せる作品がなかった。作者としては工夫を凝らしたつもりなのだろうが、既成作品の後追いであったり、安易な設定や物語作りが目立った。
『戸ノ森ふしぎ妖怪談』は、いわゆる妖怪バスターもので、これに類した作品は多く出回っている。これらをしのぐ「なにか」を創出するか、あるいは別の素材を見つけることだ。
『ハロー ワールド!』は、投稿動画という、今はやりの素材を見つけたことは評価できるが、物語作りが安易すぎる。しかも主人公たちの作る動画が、いずれも他人のプライバシーを侵害したり、大衆扇動に使われたり、かなり問題を含んでいた。
『のちの月』は、文章も丁寧で、登場人物もきちんと書かれていたのだが、中核となる謎の少女の生い立ちがなんとも古臭く、一昔前のメロドラマを観ているようだった。年寄りの思い出話より、主人公の子どもを大活躍させる物語に仕上げてほしい。
『チームヌシへようこそ』は、山の中の池で大魚を釣り上げる物語で、私自身、過去にソウギョを釣った経験もあり、個人的な近しさをもって読んだのだが、全てにおいて説明過多が目立ったし、前作第7回ポプラズッコケ文学新人賞にて最終候補となった『お父さんの落書き』同様大人のドラマに主眼が置かれ、肝心の大魚とのやり取りが色あせてしまった。ここはあくまでも古池に昔から棲む謎の大魚を釣り上げることを主題とし、大魚とのやり取りを、臨場感をもって描いたほうが良かった。もうひとつ、物語というのは、なんでもかんでも書き込めばよいというものではない。読者自身に想像させることで、より感動が深まることを学ぶ必要がある。ということで、今後の努力を期待し、本編を佳作にすることにした。次作を大いに期待する。

  • (特別審査委員 那須正幹)

選評

「戸ノ森ふしぎ妖怪談」 原町兎さん
小学4年生のおてんばな少女・凛と、強すぎる霊感を持つ虚弱体質の少年・陽は、古いアパートのおとなり同士で仲が良い。始業式の朝、体に異変を感じ気持ちがわるくなった陽だが、謎めいた転校生甲斐が通りかかると、とたんに快復した。不審に思った凛は、甲斐を問い詰めるもケンカになってしまう。謝ろうとおとずれた甲斐の家でふたりが目の当たりにしたのは、ほんものの妖怪たち! なんと、甲斐は霊能者の血筋の生まれで、修業をつむために戸ノ森の家にやってきたというが……。 妖怪ものという王道のストーリーで、わかりやすいキャラクター設定や作品のもつ軽快さ・明るさを評価する声が多かった。中学年向けのグレードであれば、安心と親しみを感じさせる内容で、好感がもてる。ただ、物語としての山場や事件性に欠け、導入部だけをまとめたような印象を受けた。また、類似したテーマの良作がすでにあることなども指摘され、もっと独自性や新しさを求める指摘も多くあった。
「チームヌシへようこそ」 ひろつちさん
父を病で亡くし、母の実家である田舎へ引っ越してきた小学5年生のこうたは、新しい生活になかなかなじめないでいた。何かを変えたい……そう思いながら、父の好きだった釣りをしていたとき、これまで感じたことのない大きな引きが。魚は取り逃がしたものの、このことをきっかけにクラスメイトのヨシと高野さんと仲良くなる。三人はこうたが取り逃がした、いなし池に住む巨大魚=ヌシを釣るため、チームヌシを結成する。釣りを通して友情を深める3人だが、ヨシが転校してしまうことになり……。 釣りの描写にリアリティがあり、登場人物の気持ちとともに臨場感をもって読めたとの意見が目立った。ただ、大人同士のわだかまりが後半の重要な要素となってしまい、子どもたちの成長や変化を描き切れていないところが残念だった。また、人物の心情をセリフで説明しすぎているため、もっと行間や地の文章のなかに、読者に想像させる余地を持たせることが課題だろう。前作も最終候補に残っており、筆力には期待のもてる方だけに、今後はテーマや展開に新しい工夫を求めたいとの指摘もあがった。
「ハロー ワールド!」 三浦真帆さん
動画投稿サイト「アイチューブ」が好きな俊は、東京から越してきた晴翔に誘われ、学生アイチューバーになることを決意する。アニメ声をコンプレックスに思っているひばりも加わり、楽しく動画を撮る一方で、俊は大人や同級生の目を気にして、その活動を公表できないでいた。コンピュータ部の活動の一環としてひそかに動画を撮ろうとするも、生徒会にばらされてしまった3人は、動画で形勢逆転をはかろうとし……。 投稿動画という今どきのモチーフを扱いながら、子どもたちが自分の「好き」に向き合おうとする姿勢や、仲間との絆でそれぞれの抱える悩みを克服していく姿を描こうとしたところは好感がもてるものの、ストーリーのディティール不足でリアリティや納得感に欠けた。また、ほかの部活動ではなく「投稿動画だからこそ」という要素を、プラスの面でもマイナスの面でももっと研究して掘り下げていってほしかった。
「のちの月」 小川雅子さん
小学6年生の佳奈は、1年生のとき、学童を抜け出して逃げ込んだ松崎家の古いお屋敷で、いとというふしぎな少女に出会い一緒に遊んだ記憶を今も大事にしている。いとは、松崎家と関係のある人物だったのではと思った佳奈は、いとにもう一度会いたい一心で、のちの月と呼ばれる中秋の名月の後の十三夜の日に、松崎家のお屋敷に忍び込むことにするが……。 異なる時代を生きる人たちの人生が、ふしぎなお屋敷で交錯するというあたたかなファンタジーで、その構成力や文章の巧みさ、心地よい読後感を評価する声が多かった。ただ、昔を振り返る「過去」の物語にとどまってしまっていることで、読者である子どもたちが楽しめる内容かどうかは大きな疑問が残った。終始、主人公がただの目撃者になっており、あまり活躍していない点も課題だと感じた。お屋敷に忍び込み抜け出すまでの物語がもっとも心を寄せやすいところなので、それ以外の部分とのボリュームバランスの悪さも指摘があった。

選考経過

応募総数148編。

1次選考の結果、以下の10編が2次選考に進みました。

タイトル名著者名2次選考通過
戸ノ森ふしぎ妖怪談原町兎
チームヌシへようこそひろつち
命聞者乙原あん
にぃー岬 舟
ふれふれっナナダイス林けんじろう
ぼくらは春の合宿でこのゑなおる
異世界転生準備中荒谷改
13歳の壁を乗り越えろ志村和哉
ハロー ワールド!三浦真帆
のちの月小川雅子

※応募受付順、敬称略

2次選考では、11名の編集者が10編の作品すべてを読んだ上で議論を戦わせ、4編を最終選考に進めることとなりました。
最終選考は、特別審査委員の那須正幹先生及び弊社社長、児童書事業局局長、児童書事業局編集部部長、児童書事業局児童営業企画部部長、12名の編集者で行いました。

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