第10回ポプラズッコケ文学新人賞
「第10回ポプラズッコケ文学新人賞」にご応募くださいました皆さま、誠にありがとうございました。
今回は、一般応募、ウェブ応募と、合わせて総数147編のご応募をいただきました。その中から、11作品が二次選考へと進み、11名の選考委員が選考にあたりました。議論を重ねた結果、最終選考に4作品を選出いたしました。
最終選考会では特別審査委員の那須正幹先生と、16名の選考委員で、作品についてさまざまな意見を交わしました。それぞれ魅力のある作品でしたが、いっぽうで課題も多く、今回は大変残念ながら、「大賞該当作品はなし」となりました。
しかし、ポプラズッコケ文学新人賞では、前回より、応募作品は粗削りであっても、キラリと光る個性を持った方を選び、編集者が担当につく「編集部賞」を設けております。議論の結果、今回は最終選考に選出された「メイク・イット」を編集部賞とさせていただくことになりました。最終選考に選出された他3作品と合わせまして、後ほど選評にて触れさせていただきます。
最終選考には残らなかったものの、話し合いを沸かせたのが「あっぷで ええと」です。
書道一筋で、新しいものを嫌うおじいちゃんが、必要に迫られパソコンの個人レッスンを受けることになるのですが、その先生というのがなんと留学生のマシュー。頑固者のおじいちゃんが奮闘する姿を、孫の友介の視点から描いたユーモラスな物語で、おじいちゃんが苦戦する様子がとてもリアルだと共感を得ました。パソコン用語を使用したギャグが、子どもたちにとって面白いものか? この設定が5年後も通用するのか? なにより友介が主体的に動いていないのではないか? などの声があがり、惜しくも選出されませんでしたが、思わず笑顔になる良作で、温かな印象を残しました。
「ズッコケ三人組」シリーズがそうであるように、ポプラズッコケ文学新人賞では、子どもが自ら考え、動き、時に大人の思惑をこえた行動で、世界を押し広げてくれるような力強さがあることを大切にしています。主人公の子どもが受け身的になっていないか、大人の都合に引きずられていないか、安易に悲観的になっていないか、次回以降のご応募を検討してくださるみなさまには、ぜひご一考いただきたいところです。
また今回、選考過程でたびたび口にのぼったのが、文章力は高いが、読んだことのある物語とどこか似ている、設定に既視感を感じる、という指摘です。新人賞では、技術の高さよりも、オリジナリティーや新しさを求めています。その点も、ぜひ意識していただければと思います。
誰もが未知のウイルスの脅威にさらされ、「日常」が「非日常」となってしまった今だからこそ、新しく大胆な切り口で、心を晴らしてくれるような物語と出会えることを楽しみにしています。書き手自身も、多くの行動を控えなければならなかったなか、より強い自由への想いを想像の世界にぶつけ、遠くまで羽ばたいてほしいと思います。
ぜひ次回も、みなさまからの力作のご応募をお待ちしています。
編集部賞
- 『メイク・イット』 高村有さん
あらすじ
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ものを作るのが大好きな、小学6年の遠藤なつき。春休みにママと映画を観に行き、そこに出ていた白塗りの死神少年に心を奪われる。パンフレットを見ると、その子役俳優は隣のクラスの田辺くんだった。そんな折、学校の文化祭で、お化け屋敷をやることになる。なつきは田辺くんにお化け役をお願いするが、すげなく断られる。田辺くんを口説き落とすため、なつきは特殊メイクを学ぼうと思いたつが……。「好き」の気持ちにむかって突き進む、ささやかな挑戦の物語。
選評
- 田辺くんが、最初はなつきの依頼を拒否するけれども、なつきは引き下がらずに、うまい具合に田辺くんをのせる。そののせ方も上手だし、田辺くんの心変わりも子どもの読者によくわかるように書かれている。最終選考作品のなかでは、もっとも子どもをしっかり描いた児童文学といえる作品だった。最後に大切なメイク道具を忘れるという展開は唐突で、そんなにうまい具合にいくのかと、リアリティにやや疑問が残った。もっと別の展開で読者を徹底的にハラハラドキドキさせてもよかったのではないか。ラストの山場としては弱かった。
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独特の力の抜けたユーモアと、子どもの気持ちを言語化するセンスを評価する声が高かった。「特殊メイク」という、あまり知られていないことのディテールを面白く読ませる力がある。また主人公のなつきが自発的に動き、うまくいかなくても簡単にはへこたれず、身の丈で道を切りひらいていく姿に好感がもてた。いっぽうで、山場が少なく盛り上がりに欠ける、ラストシーンが読み足りなかった、コンパクトにまとまりすぎている、などの意見も目立った。起伏のあるストーリー展開と、ラストに読者の気持ちを昇華させるようなシーンを加筆できれば、より面白くなるのではないか。この作者ならではのテンポと言語センスが何よりの魅力なので、これからも書き続けてほしい。
- 『葉を渡る風に吹かれて』 さんぱちはじめさん
あらすじ
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中学生の若葉は、ふとしたことがきっかけで不登校になってしまう。見かねた父親は、若葉を九州の祖母の家に預ける。そこは、十年前に死んだ母親の故郷だった。若葉は、祖母の千代が〝ことづて〟と呼ばれる、木と話す力を持っていることを知る。やがて若葉にも、ことづての力が目覚めて……。時を超えて生き続ける木の精霊や、母の妹、事情を抱えた従姉弟たちとの出会いを通して、心の奥深くに閉じこめてきた母の死を受け入れ、前を向いて生きる力を取りもどすまでの物語。
選評
- 丁寧な書きぶりから作者の誠実な人柄が伝わってきた。
いちばん感心したのが、おばあちゃんが保育園の庭で、センダンの木と話をするところ。木の話を聞く様子を、まわりの人はびっくりするわけでもなく見ている。そういう場面をとても自然に書いている。こういった場面を入り口として、作品をファンタジーとしてつくるか、あるいは子どもたちの関係性を軸にした物語としてつくるか、そこをはっきりさせる必要があると思った。ぼくは「テルハ姫」の伝説は必要ないのではないかという気がした。祖母の家は代々、木と会話ができる家、というところにとどめて、精霊の姿などは出さずに、書けばよかったのではないかと思った。
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自然が広がる美しい情景の中で、傷ついた少女の心がほどけていく様が丁寧に描かれている。ただ少女のリアルな周辺世界と、“ことづて”という特殊能力の乖離があまりに大きく、バランスを欠いている点が残念であった。もっと不思議をおさえて、“ことづて”の力と少女の日常がうまくかみあうように描かれていればよかった。また、シングル家庭の子どもが、夏休みを環境のちがう場所ですごして、新たな価値観を身につけるというのは、よくある設定。せっかくの繊細な文章力を生かして、ぜひ目新しい設定の物語に挑戦してほしい。
- 『ぼくとうずまき貝とひみつの夏休み』 原町兎さん
あらすじ
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逆井真人は小学5年生。ママとふたりで暮らしている。ある日、友達から渡されたうずまき貝を耳にあてると、耳からとれなくなってしまう。だがその貝は人には見えないようだった。夏休みに入ると、ママが出張に行くことになり、真人は九州の死んだおじいちゃんの家に預けられる。そこには、変わり者のお母さんの弟と、もののけの猫又ひかるさん、親戚の絵描きの亘子さんとその娘が住んでいた。おまけに死んだおじいちゃんの声まで聞こえてきて……。やがてあきらかになる、「うずまき貝」の秘密。あの世とこの世のはざまですごした、忘れがたいひと夏の冒険物語。
選評
- 夏休みにおじさんの家に行き、さまざまな異界の住人との交流が描かれるが、猫又も、幽霊も、ただそれっぽいというだけで、その設定にした必然性が感じられなかった。そういう設定にするのなら、もっと登場人物たちに愛情をもって、しっかり描くべきだ。最後に出てくる海でおぼれた少年が、作品のなかではもっとも迫力があった。しかし、真人が海に引きずりこまれそうになったとき、猫又も、幽霊も救助にくるわけでも、何か能力を発揮するわけでもない。話が看板倒れに終わっているように感じられた。作者がいったい何を書きたいのか、よくわからなかった。
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「うずまき貝」が耳からとれなくなる、という発想がユニークで惹きつけられる。また、自分を本名で呼ばせないおじさんや、ジェンダーレスなもののけなど、登場人物たちも皆ひと癖あって面白い。エンターテインメント性が高く、楽しく読めたことを評価する声が多かった。いっぽうで、不思議を広げすぎていて、回収しきれていない点が課題として残った。そして、『葉を渡る風に吹かれて』と同様、シングル家庭の子どもが、夏休みを環境のちがう場所ですごし、新たな価値観を身につけるというのはよくある設定。個性的なキャラクターを描く力、エンタメらしい見せ場の作り方など、見どころがたくさんあるだけに惜しい。今後は既視感のない設定の物語に期待したい。
- 『トラッシュワンダーアイランド』 寿メイミさん
あらすじ
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ロウソク岬に住む少年ハルは、オンラインゲームのランキングで上位に入り、上位者だけが参加できるイベントへ招待される。会場は、最先端の科学技術で発展した都市、コロンブス。ハルは友人ガッチャとともに、その都市のある島へ足を踏み入れる。そこには、「思考工場」という不思議な工場があり、住人たちはみな、思考を捨てるのが日常化していた。悩みや苦しみから解放される画期的なシステムとされているが、実は裏では、カラスが人間たちの思考を奪い、食べることで擬人化し、愚鈍な人間たちを操っていた。ハルとガッチャは、この都市で出会った少女、ミカンとともにカラスと闘うことを決意する。
選評
- 作者には自分の書きたい世界のイメージがあるのだろうが、読者にはさっぱり伝わってこない。読者を忘れているような気がした。カラス人間がリアリティに乏しく、ゲームのキャラのように感じられた。複雑な人間世界を支配しようという存在なのだから、もっと頭もよいはず。そのあたりが非常に簡単に描かれている。また仲間を救いにいくための関門というのか、その過程が非常にゲーム的というか、絵空事のように感じられた。自分のファンタジー世界を作るのならば、もうちょっときちっと作らなければいけない。
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スケールの大きな意欲作。今回の応募作の中で、もっとも印象に残ったという選考委員が多かった。しかしながら、コロンブスと外界との関係性が曖昧、イメージに文章が追いついておらず、状況や視点がわかりづらい、など小説としての完成度を疑問視する声もあがった。この作品のテーマは、「何も考えなくなってしまうことへの警鐘」だと思われるが、その部分が、子ども向けに掘り下げられておらず、アクションシーンに終始してしまったのは残念だった。今後は、いかに作品の「核」が描けるかにかかっていると思う。独自の世界観を大切に、これからも書き続けていただきたい。
応募総数147編。
1次選考の結果、以下の11編が2次選考に進みました。
タイトル名 |
著者名 |
2次選考通過 |
バーラ・サーレ |
弥山佳奈未 |
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あたりはずれ |
花見英 |
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なんだっけ図書館 |
夏乃雪 |
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キルナの天狗 |
堂脇榛華 |
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秘密を捨てて一人になる |
阿波野治 |
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葉を渡る風に吹かれて |
さんぱちはじめ |
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あっぷで ええと |
スーザンももこ |
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アフタヌーンティーはいかが? |
西村さとみ |
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ぼくとうずまき貝とひみつの夏休み |
原町兎 |
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トラッシュワンダーアイランド |
寿メイミ |
● |
メイク・イット |
高村有 |
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※応募受付順、敬称略
2次選考では、11名の編集者が11編の作品すべてを読んだ上で議論を戦わせ、4編を最終選考に進めることとなりました。
最終選考は、特別審査委員の那須正幹先生及び弊社社長、児童書事業局局長、児童書事業局編集部部長、児童書事業局営業企画部部長、12名の編集者で行いました。
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