大賞 該当作品なし
「ポプラズッコケ文学賞」に総数427編のご応募がありました。ありがとうございました。
応募者のうちわけは、男性が約53パーセントで、児童文学公募の場合の圧倒的に女性が多いという傾向とは異なった結果となりました。それは「ズッコケ」という名を冠しているからではないかと推察されます。応募年齢は下は12歳から上は84歳まで、多い順では、40代、30代、50代、20代となります。なかでも10代が10人もいらっしゃって、頼もしい限りでした。そこから、特別奨励賞両国龍英君が選ばれています。
審査は三次にわたって行われ、最終では、那須正幹先生を審査委員長として、弊社社長、児童書編集者4名とオブザーバーとして編集者8名が参加して議論されました。
その結果が発表のとおりです。第1回で大賞を選出できなかったことは、当初より携わり多くの作品を読ませていただいた者としては、とても残念で心残りの結果でした。 この文学賞を「お腹を抱えて、笑い、そして心から泣ける」エンターテインメント文学と位置づけています。その意味で受賞作品はあと一歩という印象をぬぐえませんでしたが、発表にもありましたように、大いなる可能性を感じ、担当者を決めて出版化を検討させていただきます。
優秀賞の荒井寛子さんの『ジャック&クイーン』は、いまはやりの漫才をとりあげています。大阪の「ジャック&クイーン」という売れない漫才師の両親のいさかいにたえられなくなって、東京の祖母の家に越してきた少女が主人公で、そこに漫才師をめざす同級生の少年がからんできます。じつは、応募原稿には旬のためか、漫才を取り上げた作品がめだちました。審査員賞にも一作はいっています。とはいえ、荒井さんは、文章が格段にうまくはじめから読者を引き込んでしまいます。それだけでなく、凝ったつくりで地の文にも突っ込みがたくさんあって、読了するとひとつの漫才作品をみたように感じます。作者の力量を推察させる作品です。しかし、後半、主人公たちが動き出すとちょっとそのまま納得させられない展開がみられました。作者の力量から考えて、同じ展開でも読者に納得させるものにはできるはずということで、作品化も含めて、優秀賞といたしました。早い時期に出版できることを願っています。
奨励賞の西村すぐりさんの『踊れ!バイオリン』は、正統な児童文学です。親元からはなれ、バイオリンを習っている主人公がコンクールに落選し、失意のまま故郷の広島にもどり、周りの音楽を愛する人びととの交流をとおして、一度はすてたバイオリンを手にし再生していく物語です。舞台が広島というシチュエーションも活かされた展開ですし、主人公の成長と周囲の人びとの優しさも細やかに描かれていて、クライマックスでは思わず涙がうかびました。しかし、導入部も含め、予定調和を感じさせてしまう優等生的すぎるのが欠点といえるでしょう。
特別奨励賞の両国龍英君の『’08ホームズと竜の爪痕』は、とにかく応募されたときの小学6年生とは思えない筆力に脱帽といったところです。推理小説を相当読みこなしていらっしゃると推察できます。ときには皮肉な文章で主人公たちを揶揄したり、読者に挑戦状をつきつけたり、手書きの小学生らしい字がならぶ原稿を最後まで読ませてしまう力は絶賛されました。しかしなんといっても12歳。これから、いろいろなことにぶつかり、職業を選んでからでもいいのではないかということで、特別奨励賞にしました。那須先生も第2のズッコケ作家の誕生を期待していますということでした。
審査員賞では、小石ゆきさんの『ぼくら6年乙女組』は面白いという票を集め3人の主人公たちの性格づけもできているが、結局は料理の場面のみが残って、なにを書きたかったのかが希薄という指摘がされました。 松島美穂子さんの『こちら、妖怪探偵局』も、上記作と同様に妖怪が探偵というのが新鮮という評はありましたが、事件も暗号解読も主人公たちもパターン化されているという感想がだされました。 桂木九十九さんの『火の木』は入選作唯一のファンタジー作品です。ぐいぐい読ませていく力作ですが、最後で息切れしたのか、異質な登場人物やご都合主義的な展開になってしまい、従来の古代ロマン作品から出ていないという批評がありました。
川上途行さんの『橙色としゃべり言葉』も漫才の物語です。2年生の主人公とおとなのかけあいになっていて、優秀賞の作品と同様に漫才ですすんでいきますが、高尚すぎることと、主人公が2年生には思えないことなどの欠点がだされました。しかし28歳と若い方ですので、今後に期待したいです。
以上の結果、今回の発表とさせていただきます。ご応募くださいましたみなさま、本当にありがとうございました。
新しい才能を発揮するべく捲土重来を期して次回のご応募をお待ちしています。なお、今回入賞された作品は出版化に向けて力をそそぐ予定です。