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ポプラズッコケ文学賞

第2回

受賞作品

第2回ポプラズッコケ文学賞

大賞 該当作品なし

受賞作(優秀賞)
『ネコの声』小浜ユリ
受賞のことば優秀賞 小浜ユリさん

今回、このような大きな賞をいただき、そのうえ立派な本にもなり、喜びと感謝の気持ちでいっぱいです。
受賞の電話連絡をいただいた日から、ずっと夢を見ているような、そんな気さえしてしまいます。
昔から空想好きで、本好きで、なんとなくぼんやりしていた子どもでした。
でも、「作家になりたい」などという大それた夢や希望は、まったくなかったのです。

頭の中でこしらえたお話を、文章にするようになったのは、結婚して子どもができてから。
あくまでも趣味の範囲でお話づくりを楽しんでいたものが、数年前、某賞で幸運にも佳作をいただいてから、夢は少しずつ現実的なものになっていきました。
私の作品を選んでいただいた選考委員の方々、那須正幹先生、そしてポプラ社のみなさまには、本当に感謝しています。
やっとここまでこれた達成感はありますが、これがゴールではなく、スタートだと思って、これからも書き続けたいと思います。
本当にありがとうございました。

  • 小浜ユリ

講評

優秀賞『ネコの声』小浜ユリさん
同じクラスの数人の子供たちそれぞれに起こる「不思議」を連作の形で、しかし各話微妙にシンクロさせながら描いた作品。
第1話:いじめに遭っている女の子が、相手に復讐する夢をみるようになり、それが現実化していく/第2話:同じマンションに住んでいたが事故で亡くなった男の子の幽霊を見るようになった少年/第3話:学校で一切口をきかない少女がネコと喋れるようになり・・・・・・/第4話:「宇宙人」と呼ばれ、「ちょっとおかしな人」と皆に思われている近所の青年を、宇宙人と信じた少年。2人に起こる不思議な出来事/第5話:子供たちの学校で50年前に起きた不思議な出来事とは・・・・・・
子供の悪意・罪の意識といったものも含め、日常の子供たちの心情を「不思議」を通して描き出した作品。1話1話は別の作品でありながら少しずつ重なり合う部分があり、最終話でひとつの物語になるという鮮やかな手法も高く評価された。
『庚申待ち』泉田もとさん
昔の暦で60日にいちど巡ってくる庚申の日には、人間の身体に巣食っている三尸(さんし)という蟲が抜け出し、人間の寿命を司る天帝に、その人間の悪行を告げ口する――という伝承に基づいたファンタジー。
三尸の暗躍を阻止しようとしている神様の命を受けた三猿(ミザル・キカザル・イワザル)に、主人公の少年が強引に仲間にされる。少年の幼馴染みがエリートの父親との対立から悪の道に踏み込もうとしている――それを阻止せよ、と言うのだった・・・・・・
オリジナリティの高い、大きな構想の物語であるが、肝心の問題解決部分に迫力が欠けている。また、主人公は巻き込まれて行動を開始するのだが次第に友だちのために必死になっていく、というハートフルな物語である筈で、その気持ちの部分をもっと書いて欲しかった。
『へびおとこ』サクライマサミさん
転校したクラスでいじめに遭い、不登校を始める少女。居場所を求めてさまよい、行き着いたのは図書館だった。そこには子供たちに「へびおとこ」と呼ばれる司書がいた。彼は少女を可哀想がるでもなく、同情の素振りを見せるでもないが、ただ少女の存在を受け容れてくれた。不登校の子供を出入りさせていることを上司に責められた彼は、「ここを追い出したら、子供は次にどこへ行けばいいのですか?」と叫ぶ・・・・・・
非常に読ませる作品。図書館の本の力、司書の青年の存在、もうひとり図書館に居場所を求めてきている少年との共感・・・・・・図書館に舞台を移した「秘密の花園」のようでもあり、読者を引き込んでいく作品。
だが、非常に大きな問題を提示しながら充分に描き切れていない点が残念だった。
この作品では、人々の差別する意識というものが描かれている。こうした問題を書く以上は、真正面から向き合い、主人公たちがどう受け止めていくのかを真摯に書かなければならないと考える。安直なヒューマニズムで逃げてしまっている印象だった。
もうひとつ。居場所を得た少女が次第に心を開いていく姿は魅力的なのだが、そこからもう1歩踏み出す――本来の居場所に立ち戻って生きていこうとする力を獲得していく――部分の描き方が形式的であり、数年後に舞台が切り替わってハッピーエンドとなってしまう。
大変力のある書き手と思うので、是非もう1歩テーマを深く追求して作品を完成させていっていただきたい。
『幸せの呪文』重里紗弥香さん
魔法がさっぱり上達しない魔女のアリステンおばさん。だが、曾祖母は稀代の天才魔女で、アリステンだけに「幸せの呪文」を伝えてくれていた。 アリステンは修業のため魔法使いの森を出て、人間の町・クジラ岬へ行き、菓子屋を始める。そこで仲良しになった子供たちとともに様々な冒険を繰り広げる。だが一方で、大魔法使いたちがアリステンの幸せの呪文を奪い取ろうと、次々襲いかかってくる。人間がどんどんのさばってくる中で、魔法使いたちは危機感を持ち、幸せの呪文が切り札になると考えたのだった・・・・・・
物語の構成がよく考えられている作品。作者が若いせいか稚拙に思えるところも見受けられるが、作者のイメージを完全に再現できるよう表現を練り上げていってもらえれば、非常に魅力ある作品となるのではないか。幸せの呪文とは何か? 幸せとは何か? という部分をもっと掘り下げ、力強いドラマにしていってもらいたい。
但し、魔女物には多くの傑作があるので、設定面で既視感を覚えてしまうのはマイナスポイント。なんらかのオリジナリティを加えていってもらいたい。
『百円玉が百万枚』川上里恵さん
主人公の少女は非常に裕福な家庭で育ったが、両親が離婚。美人でスタイルとファッションセンスは抜群だが、生活力ゼロ、社会常識ゼロの母親と2人で暮らすことになる。若くして社長である夫に1億円の慰謝料を請求したところ、大型車両が安アパートに横付けされ、100万枚の100円玉が流し込まれた。そこから始まるてんやわんや・・・・・・
作者はテクニックがピカイチである。100円玉が100万枚あったらどうする? という、普通に考えるとそれほど発展性のなさそうなモチーフを用いながら、飽きさせることなくキビキビとストーリーを展開させていく。また、非常識な母親像が魅力的であった。
しかし、肝心要の子供自身のドラマが稀薄だった。リアルに考えるなら、両親共にひどい親である。そういう中で主人公は何を考え、子供ながらにどのような選択をしていくのか、といった子供自身にとってのドラマにして欲しかった。
『お願い! フェアリー』(はじめましてフェアリー編)みずの まいさん
主人公は喘息で学校を休みがち、勉強も運動も苦手という女の子。その前にある日突然、フェアリーが現れる。フェアリーは、いつでも女の子を見守り、励まし続けてくれる。
だんだん自信が出てきた少女は、学校の発表会の劇で脚本を書くことになった。発表会は成功するか? 憧れのクラスメイト男子と友だちになれるのか? 超美少女のライバルとは・・・・・・?
大変軽いノリの作品だが、子供に非常に近い感覚で書かれている。普段あまり本を読まない子供でも容易に感情移入し、ドキドキして読んでいける作品だろう。
あまりにも主人公にとって都合のいい話になっている点、ストーリー展開の中で重要な要素を占める劇の内容の拙さなど欠点も多いが、上手くシェイプアップして子供たちに支持される作品に仕上げていってもらいたい。
『豚田(とんだ)豚饅頭店』辰野ぱふさん
なんとも不思議な味わいの作品。
ブタのブッキは、頑固一徹の父親とともに豚饅頭をつくっていた。中身の入らない白饅頭しかつくらない、というのが父親のポリシーだった。その父親が亡くなる。呆然と2週間を過ごした後、他にすることもないのでブッキはまた豚饅頭をつくり始める。父親と同じようにぶつくさ文句ばかり言いながら、でも一心に。そしてブッキは饅頭の中身にも工夫を凝らし始める。あじさいとクリームを入れた長雨虹饅頭。キンモクセイとドングリ、山栗を入れた、秋の木の実・木の花饅頭・・・・・・素材を触っているだけで、ブッキは何をどうしたらいいのか頭に浮かんでくるのだった。独り言で文句ばかり言っているブッキだったが、ブッキの饅頭を愛する動物たちに囲まれて、だんだんと心がほかほかしてくるのだった・・・・・・
淡々とした語り口で、かわいげのないブタがひたすら饅頭をつくっている話なのだが、奇妙に胸にしみてくるし、引き込まれる。季節の饅頭を工夫してつくっていく描写が魅力的だ。孤独なブタを他の動物たちが温かく見守っている姿に、こちらの胸も温かくなってくる。
ただ、なぜ父が中身を入れないことにこだわったのかわからず、親子のドラマが曖昧になっている。幼い頃に父と別れた母と姉の話も中途半端。また、この作品を子供がどれだけ楽しめるだろうか、一般文学という感じでもないし・・・・・・と、読者対象が議論となった作品である。
『サマーフラッシュ』朝日希新(きあら)さん
作者は14歳だが、それが信じられないくらい達者。
中3と中2の姉妹の物語。成績は学年トップ、友人たちからの人望も厚い妹がある朝突然、「あたし、今日から学校行かないから」と宣言する。やりたいことがあるから、と。妹が公園で出会った、やはり不登校になっている小学5年生の気の強い女の子。いじめに遭っているらしく様子がおかしい幼馴染み・・・・・・などのエピソードも交えストーリーは進行していく。と言うと、非常にシリアスな話のようだが、全体に飄々とした雰囲気で、軽快な会話を主体に展開していく物語だ。
描写にも魅力を感じる作品だったが、血の繋がりといったことでストーリーを決着させてしまうところにがっかりさせられた。特別な原因などいらないから、中学生のリアルな日常の感情をもっと書いて欲しかった。いくつかのエピソードが並行して進んでいくのだが、どれもいい感じでありながら物足りない。登場人物・エピソードを整理していった方がよいのではないか。
ただ作者が中学生であるだけに、今急いで改稿を進めてもらうより中学生活などをしっかり送ってもらい、じっくりと作品を書いていって欲しいと考えている。
『ぺんぎん家族』イケダ・ユミコさん
不登校の少女の隣の家に引っ越してきたのは、ぬいぐるみのペンギンとくまの夫婦だった。ティディベアの赤ちゃんも一緒だ。ペンギンの奥さんは世話好きなおばちゃん風で、原因不明の胃痛に苦しむ少女を家に招いては、上等な紅茶と手づくりケーキでもてなすのだった。少女もこのぺんぎん家族と接しているときだけ心が軽くなるようだった。母親と衝突して家を飛びだした少女は、亡くなった京都のおばあちゃんの家に行こうとするが、元暴走族らしいペンギンの奥さんの車に乗せてもらうことになり、高速をひたすら爆走していくが・・・・・・
あり得ないシチュエーションなのだが、読まされる。重い現実を抱えた読者が読んだとしても、ユーモアとシリアスが交錯するこの物語なら、辛くなりすぎずに感情移入していけるのではないか? ぺんぎん家族という設定にどう決着をつけるのかが問題だと思って読んでいくと、結末に大変がっかりさせられた。
不登校の問題についても同様である。鬱々として体調もおかしくなっている描写や、母親とのやりとりもリアルでよかった。だが、原因が三角関係みたいな話になってしまい、それが解消したら主人公の不登校も解決ということでは納得がいかない。 この作品をどうまとめていくか難しい気もするが、力のある書き手であることに間違いない。

最後に。
応募作品全体を通じて実に多かったのが、不登校や問題のある家庭の話、そしてファンタジーでした。
子供たちが心から感動し夢中になって読んでくれる作品――を、ポプラズッコケ文学賞では求めています。そのこと以外にジャンルなどの縛りはありません。しかし私たちとしては、もっともっと子供たちが躍動し、物語世界を疾走しているような作品を読ませていただきたいと願っています。
子供たち自身の論理で貫かれた物語。子供たちの感情がみずみずしく伝わってくる、子供たちの笑い声が聞こえてくるような作品――を読ませていただきたい。そして次回こそ、大賞受賞作品を出させていただきたいと願っています。
第3回の募集にも是非ご応募いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。

選考経過

応募総数453編。
16名の編集者で分担を決め、1次選考。判断に迷う作品については2名以上の編集者が読んでいます。
その結果、以下の32編が2次選考に残りました。

タイトル名著者名最終選考に残った作品
「備品室のこわれたひきだし」在上水悠
「わかんなァーい!」犬丸らん
「向島パイレーツ!」桜庭章吾
「ハードボイルド探偵団―ごんがらごん王国の秘密―」かとう☆まなぶ
「庚申待ち」泉田もと●
「ブルーギルって何?」京一輝
「陽春(はる)らんまん」中田トキ
「笑福こまいぬ団・お宝発見?! の巻」奈雅月ありす
「アッサラーム新井君」王子哲宏
「江戸コスモス」田村つねこ
「へびおとこ」サクライマサミ●
「青い猫」中尾三十里
「幸せの呪文」重里紗弥香●
「百円玉が百万枚」川上里恵●
「光陽ヶ丘の魔女」西村さとみ
「人間界管理人 六道メグル」宏志佐透夏
「ヘルタースケルター」  
「ネコの声」小浜ユリ●
「ドリームチェンジャー」紫苑かをる
「お願い!フェアリー(はじめましてフェアリー編)」みずの まい●
「ASAGI」無茶雲
「豚田豚饅頭店」辰野ぱふ●
「おねがいサンタマリア」入谷照海
「ないしょで ヒミツの 交換忍記」笠木芙美
「ヒーローのたまご」秋月うさぎ
「河川敷アナザーワールド」おろち曉
「サマーフラッシュ」朝日希新●
「ぺんぎん家族」イケダ・ユミコ●
「魔法使いの家政夫」雪谷かなえ
「約束は、楠木の下で」浦田せら
「夢おじさんとゆめくいへび」坂井友洋
「朔」赤星はい

※応募受付順、敬称略

2次選考では、9名の編集者が32編の作品すべてを読んだ上で議論を戦わせ、9編の作品を最終選考に残すこととなりました。

最終選考は、選考委員長の那須正幹先生と、弊社社長及び10名の編集者で行いました。
意見が分かれ、選考は長時間に及びました。それぞれの作品を推す声も多く上がったものの、冒頭にも記したように受賞とするには問題点が多すぎる・・・・・・といった事情で、最終的に受賞は優秀賞の1編とすることになりました。

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