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ポプラズッコケ文学新人賞

第2回

受賞作品

第2回ポプラズッコケ文学新人賞

 「第2回ポプラズッコケ文学新人賞」にご応募くださった皆さま、どうもありがとうございました。今回も力作が集まり、全部で241編のご応募をいただきました。

 第1回では残念ながら大賞に該当する作品を選ぶことができませんでしたが、今回は、魅力ある2つの作品のどちらを大賞にするかで最終選考がおおいに盛り上がりました。審査委員長である那須正幹先生が、丁寧に描かれた奈雅月ありすさんの「信長、境川を越える──ロボカップサッカーの陣」を推し、「ズッコケ三人組」シリーズの担当編集者だった弊社社長が、勢いのよい「姫隠町でつかまって」を推し、選考にあたった10人の編集者たちの間で、さかんな議論が交わされました。その結果、前者を大賞に、後者を佳作に選ばせていただくこととなりました。

 選評につきましては、<選考過程>に詳しく記しておりますが、どちらもエンタテインメント性にすぐれ、子どもたちをワクワクさせてくれる物語です。それぞれに課題もありますが、今後お二人には編集者とともに受賞作をブラッシュアップしていただき、期待の児童文学の作家として、デビューしていただきたいと思います。

 さて、大賞作品は、織田信長と徳川家康のキャラクターとライバル関係を下敷きにした、現代の少年の成長物語。佳作作品は、現代の少女が戦国時代にタイムスリップして大活躍する物語です。今回は、こうした時代ものを題材にした作品の応募が非常に多くありました。二次選考に残った8作品の半数以上を占めており、編集部でも驚きがありました。大人の小説での人気を反映しているのでしょうか。二次選考では20代の2名の時代もの作品に注目が集まりましたが、筆力を感じるものの、どちらの作品も、「子どもが面白く読めるように書けているか」というところに疑問が残りました。次回に期待したいです。

 最終選考に進んだのは4編。それぞれよいところがあり、評価されましたが、なかでも、ライバルや仲間たちと部活動をするなかで主人公の成長をユーモラスに描いた奈雅月ありすさんの作品が好感と今後への期待を集め、大賞に決まりました。

 今年、本賞の前身である「ポプラズッコケ文学賞」の第2回で優秀賞を受賞された小浜ユリさんの、2作目の作品『むこうがわ行きの切符』が、第22回椋鳩十児童文学賞に選ばれました。同じ回で最終選考に残ったみずのまいさんの『お願い!フェアリー』は、現在7巻まで刊行中の大人気シリーズとなっています。活躍中のズッコケ賞出身作家に続くみなさんの力作を、第3回に向けて改めて募集いたします。編集部をうならせる、フレッシュな力作のご応募を、心よりお待ちしております!

大賞 副賞100万円

受賞作(大賞)
『ノブナガ、境川を越える──ロボカップジュニアの陣』
奈雅月ありす

佳作 副賞20万円

受賞作(佳作)
『姫隠町でつかまって』二枚矢コウ
受賞のことば大賞 奈雅月ありすさん

このような大きな賞を、自分が手にすることができるということが、いまだ夢見心地で信じられません。

いつかはプロデビューしたい。そう思い始めたのはいつのことだったか。
最初は子どもの成長記録をつけるつもりで書きつづっておりました。それがたまたま公募で入賞するようになり、それならもっと、それならもう少し、とさらに上を目指すようになりました。めぐまれたことに、私にはずばずばと本音で批評してくださる先生方と仲間がおります。そして、いつもかわらず熱いエールを送ってくださる、市立図書館の皆様も。他にも外部講師としてかかわってくださった先生方はじめ、折にふれ助言や批評をしてくださった方々も……。
多くの人に支えていただいたおかげで今日があることを、ひしひしと感じます。

この作品を評価してくださり、本当にありがとうございました。
これからが正念場だ、と思っております。子どもたちに「おもしろかった」といってもらえるお話を届けられるよう、さらに日々学んでいきたいと思います。

  • 奈雅月ありす

講評

大賞『ノブナガ、境川を越える──ロボカップジュニアの陣』奈雅月ありすさん
織田信長を尊敬してやまない、尾張・名古屋の中学生、織田伸永は、父親の転勤で、敵対視している徳川家康の地、三河・岡崎に越すことになる。伸永は、神童と呼ばれるほどの腕前だったサッカーを続けようとしたが、転校先の学校にはサッカー部がなく、なぜか「ロボサッカー部」というマイナーなクラブに入部。そこには殿様のような態度のプログラミングの天才児、徳田家康という同級生がいて……。 優秀ゆえにプライドが高く鼻持ちならない主人公は、友だちももてず、周囲から浮いていた。それが、転校先のロボサッカー部で、自分以上の天才に出会う。反発しながらあがくなかで、おだやかな性格のクラブのメンバーに助けられながら、自分のことを見つめ直し、変わっていく様子がよく描かれている。二人のキャラクターがやや大げさすぎたり、うまく設定を使えていない感じはあるが、ロボカップサッカーという珍しい題材に取り組んだ点、土地に根ざす歴史を感じさせる設定、クラブのメンバーひとりひとりにも愛情をもって書いてあり、読者を楽しませてくれる点などが評価された。キャラクターを整えたり、ロボットサッカーの様子がもっと目に見えるように書かれていると、さらに楽しめる作品になると思われ、大きな期待を集めた。
佳作『姫隠町でつかまって』二枚矢コウさん
幼なじみの病変を聞いて、家を飛び出した奈々美は、近道を通ろうとして迷路に迷い込み、そこで死神の男の子にであう。壊れて封印がとけてしまった塚をもとに戻し、町の危機をすくう手伝いをしてほしいと言われ、奈々美は死神の男の子とともに戦国時代へ飛ぶ。 奈々美が家を飛び出す冒頭から勢いがあり、次々と展開していくスピード感や、元気で派手なアクション描写に高評価が集まった。全体にエンタテインメント要素満載で、ぐいぐいと読者を引き込む力強さがある。また、最終的に戦国時代での奈々美の行動が現代の歴史につながっていく構造も、爽快感があった。一方で、ストーリー上都合がよすぎではないかと思われる部分や、時代ものとして考証の甘い点が多くあったため、残念ながら大賞には至らなかった。この点を再考して、さらによい作品にしていただきたい。
『そして号砲は鳴った』高森美由紀さん
なかなかクラスにとけこめない、地味な転校生ユウト。姉御肌なクラス委員長の宮木さんに、県民マラソン大会にしつこくさそわれる。前の学校での苦い経験のため断っていたユウトだが、病気で倒れ、入院した母を元気づけるために、出場を決意する。家事とトレーニングの日々のなか、仲間もでき、ユウトは変わっていく。 落ち着いた文体で、真面目に書かれた良作。母の入院中、慣れない家事を、失敗しながらけなげにがんばる様子がよく書かれてあり共感をさそわれた。描写がややまわりくどく、冗長になっているのではないか。また、母の死はこの物語に本当に必要だったかという点に疑問が残った。前回も選考に残った方、さらなるステップアップを期待したい。
『魔術師』若乃麻友さん
魔術師界で生まれ育ち、高い能力をもったシェラスは、さる事情から、人間界で、人間界に侵入して悪事をはたらく魔術師をつかまえる仕事につく。さまざまな素性の人に変身して人間の友人をつくったりしながら、彼の「事情」が明らかになっていく、短編連作。 1話目は主人公と出会う側の視点から始まり、謎めいた雰囲気。話ごとに日付や話者が変わるうちに、次第に世界がわかってくる。魅力的な凝った構成だが、全体で見ると何の話なのかわかりづらかった。「魔術」が題材だが、魔術がどういうものか、魔術師界の描写も少なく、世界を分けた意味や魅力が伝わってこなかったのが残念。独特の感覚や世界がありそうなので、次回作に期待したい。

選考経過

応募総数241編。

10名の編集者で分担を決め、1次選考。判断に迷う作品については2名以上の編集者が読んでいます。
その結果、以下の11編が2次選考に残りました。

タイトル名著者名最終選考に残った作品
そして号砲は鳴った 高森美由紀
妖しの城初心嵩
ノブナガ、境川を越える──ロボカップジュニアの陣奈雅月ありす
哺乳類覚醒天利礼二
象がくるゾウ三村雅子
エビスコ初場所 赤まわしちゃん藍澤誠
姫隠町でつかまって二枚矢コウ
水魑の璧清水さゆる
大空へ、はばたいてゆけ山内心智
犬のおじいちゃんやましたゆきこ
魔術師若乃麻由

※応募受付順、敬称略

2次選考では、9名の編集者が11編の作品すべてを読んだ上で議論を戦わせ、4編の作品を最終選考に残すこととなりました。
最終選考は、選考委員長の那須正幹先生と、弊社社長及び10名の編集者で行いました。

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