第2回ポプラ社小説大賞
大賞 該当作品なし
- 受賞作(優秀賞)
- 『月のうた』穂高明(ほだか・あきら)32歳・女性
- 受賞作(奨励賞)
- 『ラブ・パレード』秋山寛(あきやま・かん)31歳・女性
- 受賞作(奨励賞)
- 『ガレキの下で思う』山下貴光(やました・たかみつ)32歳・男性
最終選考作品
- 『月のうた』 作者名:穂高明(ほだか・あきら)32歳・女性
- 『ラブ・パレード』 作者名:秋山寛(あきやま・かん)31歳・女性
- 『ガレキの下で思う』 山下貴光(やました・たかみつ)32歳・男性
- 『秋鮭と無断欠勤』 十川靖生(そがわ・やすお) 33歳・男性
- 『オレンジソックスの甲子園』 後藤敏彦(ごとう・としひこ)50歳・男性
- 『孤高の犯罪者ここに誕生す』 中岡経光(なかおか・けいこう)50歳・男性
全体講評
第2回ポプラ社小説大賞は、前年に引き続き、幅広い年齢層の方から、1,223作品という多数のご応募いただきました。お送りいただいた皆様、本当にありがとうございました。
選考にあたり、前年同様、編集者が読んでこの才能を世に送り出したいと心から思える作品である、ということを強く意識いたしました。選考には、30名以上が関わりました。1次選考では、41作品が通過し2次選考ではさらに、11作品に絞りこまれました。そして3次選考を経て6作品が最終候補となりました。最終選考会には、編集部を中心に、宣伝、販売の代表者など17名が集り、議論を交わしました。6作品について、それぞれの観点で意見が活発に飛び交いました。
最終的に今回は、大賞は該当作なし、優秀作1作という結果になりました。残念ながら大賞は該当作なしとなりましたが、編集サイドの強い意向により、今回、特別に奨励賞(賞金なし)を設け、2作品を選出いたしました。
詳しくは、下記の講評をお読みいただければ、と思います。
同時に第3回ポプラ社小説大賞の募集を開始いたします。第2回の応募作では、第1回の大賞作を強く意識している作品が見受けられました。この賞は特定のジャンルを追及する賞ではなく、新たな才能との出会いを希求しています。既存の小説の枠に囚われない、新しいエンターテイメント小説を心よりお待ちしております。
- ポプラ社小説大賞事務局
- 事務局長 芝田暁
- 2007年6月30日
最終候補作品講評
- 優秀賞『月のうた』穂高明(ほだか・あきら)32歳・女性
- 中学三年生の民子は、父と後妻の宏子との3人暮らし。何かと実母・美智子と比べてしまい、宏子とはうまくいかない民子だったが、幼馴染の陽一の母・祥子から満月の夜の話を聞かされる……。ひとりの女性の妊娠、出産を通して、変わりゆく家族像を描いている。
民子や後妻・宏子などの視点から、それそれの生が交錯していく様子を浮かび上がらせる。“月齢”や“インドの花祭り”など「月」にまつわるエピソードが効果的に使われており、小説全体に静謐でどこか神秘的な印象を与えることに成功している。地味なテーマでありながら、構造的な巧さと人の営みの温かさを感じさせる筆致への評価が高く、今回の受賞に至った。
- 奨励賞『ラブ・パレード』秋山寛(あきやま・かん)31歳・女性
- 幼い頃から自分の外見にコンプレックスを持っていた祥子は、周囲の人間を見返すべく猛勉強の末、東京の有名高校に見事合格する。しかし上京初日、身元引き受け人の叔母が行方不明の夫を追って海外へ行ってしまい、祥子は叔母夫婦が経営するフレンチレストラン“ラブ・パレード”のコックたちと一つ屋根の下で暮らすことに……。
“独特の面白さが感じられる”“映像化しやすい作品”と複数の選考委員が評価した。大賞・優秀賞とするにはキャラクター造詣の甘さ、ストーリー展開が類型的である等、いくつかの課題はあるとの意見が多かったものの、同時に作品の潜在能力の高さを強く認め、今回新設された奨励賞の受賞となった。
- 奨励賞『ガレキの下で思う』山下貴光(やました・たかみつ)32歳・男性
- ある日、学校が崩壊し、職員と生徒約2,000人が学校内に取り残される。ガレキの下で起きている様々な物語を拾い上げた連作短編。励ましあう双子、いじめの構造が逆転する二人、やる気のない教師とドロップアウトの生徒、癌宣告を受けた父を持つ男子生徒……。
一見、設定は災害小説を思わせるが、実は普遍的な人の物語。それぞれのエピソードに作者の人を描くセンスが垣間見え、今後が期待される。しかしながら、全体として読んだときには小説としての弱さも見受けられた。エピソードを繋ぐ背骨として使われていたキャラクターが弱い、最終章が新鮮味に欠けるなど課題もある作品ではあるが、最後まで読ませてしまうストーリーテリングの妙味は選考会でも評価が高く奨励賞となった。
- 『秋鮭と無断欠勤』十川靖生(そがわ・やすお) 33歳・男性
- 20代のOLが、ある日彼氏に別れ話を切り出そうして、間違って刺してしまい、いつのまにやら電車を乗り継ぎ、稚内のとある場所に辿り着き、不可思議な友情と勇気を獲得するロードムービー風の物語。
今回、一番作品の評価が分かれた作品。1ページめくると、どこにいて何が起きているかわからない目まぐるしいストーリ展開と独特のコメディタッチの文体に票が割れた。不安定ではあるが、勢いを感じる作品である。独自の文体と筆勢を武器に今後も書きつづけて欲しい、という評価であった。
- 『オレンジソックスの甲子園』後藤敏彦(ごとう・としひこ)50歳・男性
- 今から四十年前、東九州の小さな港町を元気に飛び回る少年たちがいた。彼らが憧れるヒーローは“オレンジソックス”と呼ばれる、地元の名産・みかん色にストッキングを染めた津久見高校野球部の監督と選手たちだった。そんなある日、少年たちに朗報がもたらされる。津久見高校のセンバツ甲子園初出場が決まったのだった……。
作品全体を通じて安定感のある筆致に加え、昭和40年代の地方の田舎町を舞台にした、郷愁を感じさせる情景描写の巧みさや、伸び伸びとした少年たちの姿を正当派の群像劇へと落としこんだ確かな筆力に高い評価を与える選考委員がいたものの、“新鮮味に欠ける”“野球の試合描写が冗長で退屈”といった意見が多数を占めたため、選に漏れた。
- 『孤高の犯罪者ここに誕生す』中岡経光(なかおか・けいこう)50歳・男性
- 両親と姉に先立たれ、極貧の中で暮らしてきた中根孝志は、一億円の札束に火を放ち高笑いをするという望みを抱く孤独で屈折した四十男。現在は宅配便の仕分け作業とデリバリーヘルスのドライバーをかけ持ちして生計をたてているが、唯一の友人・野々村の死をきっかけに、中根は犯罪の世界に身を投じる覚悟を決める……。
膨大な原稿量に詰め込まれた世界観の異形さや、主人公の語りを通して披瀝される、あらゆる分野に跨った著者の知識の広さは読む者を圧倒するパワーを備えているものの、ノワールとして未達の部分が多く、読み手にとっては冗長に感じられる物語であった。読後大きなカタルシスが得られる作品を期待したが、突き抜けるラストシーンは用意されておらず、選外との評価になった。
第2回ポプラ社小説大賞は1223作品のご応募をいただき、下記の41篇が1次選考を通過いたしました。
タイトル名 | 著者名 | 2次選考通過 |
秋鮭と無断欠席 | 十川靖生 | ● |
七番街ストーリー | 竹宮功 | |
マザーシップ・ゴー アヘッド | 木村知雄 | |
荒野のハムレット | 高橋一人 | |
恢々されど汲々 | 蔵辰ぶん | |
無情の海 | 片桐貞夫 | |
天羽助佐衛門の冒険 ロンリー・ウルフと飛行島の秘密 | 加集大輔 | |
レオナルド・W(ダブル) | 井倉拾夢 | |
悪い風 | 相原光 | |
妄想!伊茂サンクチュアリ | 山本真大 | ● |
ミスターブルースカイ | 清水佐知子 | ● |
慶林七国譚 白額 | あまのみぞれ | |
孤高の犯罪者ここに誕生す | 中岡経光 | ● |
パージ・ドール | 村岡直樹 | |
青空裁判 オトンとオカンは有罪?無罪? | 元井友吾 | |
マイ ディア プリンス | 七五八山三 | ● |
オーバー・フロウ | 中山幸陵 | |
ヒトは眠りに落ちるとき、どうして瞼を閉じるのだろうか | 豆虎猫吉 | |
ラブ・パレード | 秋山寛 | ● |
タナトスの愛し子 | 山内ニコル | |
月のうた | 穂高明 | ● |
オレンジソックスの甲子園 | 後藤敏彦 | ● |
拡散する彼女 | 小平義人 | |
Dark Blue Horizon | 藍河瑠依 | |
ひっそりとした夏の裏側 | 時里甲 | |
巴里のサムライ | ムッシュ・エ・マダム矢島 | ● |
僧院の花嫁 | 蔵本みのり | |
仙人の庭 | 高橋くみ | |
茎剥メロゴニィ | 匪寧馨児 | |
茶譚 cha tan | 佐藤みゆき | |
ガレキの下で思う | 山下貴光 | ● |
ガッチ探検隊 | 桶谷満 | |
TOKYO守護天使 | 高橋文樹 | |
耳に残る静寂 | 東藤近 | |
お菓子な絵本 | 森川由紀子 | |
夢はもういらない | 君条文彦 | |
ガゼル イン グラス | 遠藤つぐむ | |
クレイジーラブストーリー | 小沢拓哉 | |
不可視の檻 | 古月昌巳 | |
アルジの箱 | 岩月杏佑美 | |
アルビレオ | あい恥夫 | ● |