「ねえ、ぼくはぜんぶ断ったんだよ、ロバート。
きみにすべてをまかせたい。
きみならいっしょにやってくれると信じてる」
本書の著者、ロバート・シェルトンがボブ・ディランに会ったとき、若きシンガーはニューヨークに降り立ったばかりだった。シェルトンはすぐにディランの友人となり、擁護者となる。
1961年、シェルトンは『ニューヨーク・タイムズ』紙に、ディランの登場を告げる記事を書く。それはポピュラー音楽の歴史を変える伝説のレビューとなった。ディランの信頼を受け本書の執筆にとりかかった著者は、膨大な歳月を注ぎ、ディランと関わった人たちへのインタヴューを敢行する。ディランの家族、幼少期を過ごしたヒビングの友人たち、ミネアポリスの同級生、『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』のジャケットで永遠の命をあたえられたスージー・ロトロ、ジョーン・バエズ、マリー・トラヴァース、ピート・シーガーといったミュージシャン仲間、マネージャーのアルバート・グロスマン、詩人アレン・ギンズバーグ……。
20年の歳月をかけて完成した本書は、巨大な時代のうねりのなかに閃光を放つ詩人と世界の関係を描いた、評伝文学の金字塔である。
ここまで書ける人間は、もういない―。
【目次】『ノー・ディレクション・ホーム』のいま/英語版編者による序文/Prelude 時代は変わった/01「ここで声を荒らげないでくれ」/02ミシシッピ川を隔てて/03トーキング・グリニッチ・ヴィレッジ・ブルース/04寂しき西四丁目一六一番地/05御用詩人ではなく/06ロール・オーヴァー・グーテンベルク/07いくつかの地獄の季節/08オルフェウスがプラグを差し込む/09 闘技場のなかで/10片足をハイウェイに/11沈黙に耳を傾ける/12自由なる逃走/13雷、ハリケーン、そしてはげしい雨/Postlude闇を突き抜けて【巻末資料】索引/年譜 1979―2016/主な録音作品/主な参考文献
「いっしょに本をつくろう」とディランが積極的に協力した決定版伝記。20年に及ぶインタヴューを含む膨大な調査をもとに完成させた本書は、60、70年代を中心に彼の真実を伝える。この時期はディランが湧き出る創作力をもとに衝撃的な変化を繰り返し、未知の世界を切り開いた重要な時期だった。「正直な本だったら、ぼくは傷つかない」とディランは言った。熱心なファンはもとより、入門者にも薦めたい必読の書。―菅野ヘッケル(ボブ・ディラン愛好家)
ロバート・シェルトン(Robert Shelton)
1951年に「ニューヨーク・タイムズ」に原稿整理係として入社し、その後50年代半ばから1963年にかけて、スタッフ・ライターとなる。
1950年代の終わりには、美術欄でジャズやフォークの批評を書いていた。ブレイクすることを求めてグリニッチ・ヴィレッジのナイトクラブやコーヒーハウスにいた若き才能あふれる人々は、シェルトンがめぐらす批評のアンテナのおかげで、はじめて自分たちの作品がアメリカ全土の注目を集めることとなった。ジュディ・コリンズはシェルトンには「知性と感性と、音楽界や社会的意識の中にある、たぐいまれですばらしいものを見抜く能力」があったと書いている。
ポピュラーミュージックの歴史の中で独自の地位にいながらも、シェルトンの人物像はディランの仲間内以外にはほとんど知られていない。しかし、彼はディランの物語における歌わぬヒーローであり、誰よりもずっと前からディランの才能を見抜き、彼を支持してきたのだった。