「ポケット・ショコラ」は、キュンとトキめく恋のストーリーばかりを集めた、人気の児童文庫レーベルです。
ただいま、バレンタイン&ホワイトデーフェアを開催中!特別に、人気シリーズ「噂のあいつは家庭科部!」の描き下ろしショートストーリーを公開いたします。
シリーズ読者の方はもちろん、読んだことのない方もぜひ、とってもかわいいカップルの甘~いストーリーを楽しんでくださいね!
明林高校2年生紺野さやかは、真面目にやっているのに怖いほど不器用な、家庭科部のおしつけられ部長。かっこいいと噂の新入生男子、内海悠はワケあって家庭科部に入部。要領の悪いさやかにいら立ってばかりの内海だったが、次第にまっすぐでひたむきなさやかに惹かれていって……今ではすっかりさやか先輩にべた惚れ!?
「はい、さやか先輩。あーん」
甘い声とともに、目の前にずいっと薄ピンクのマカロンが差し出される。私は思わず、軽く身を引いた。
「い、いや、自分で食べれるから――」
「駄目ですよ、先輩。約束は守らんと」
私の彼氏の内海悠くんは、爽やかな見た目に反して執念深いタイプだ。
三月十四日、ホワイトデー。私の家のリビングで、満面の笑みを浮かべている内海くんを見ながら、私はしみじみとそれを実感していた。
ことの発端はと言うと、一か月前のバレンタインデーにさかのぼる。
私はこの日のために、前日から二種類のチョコレートを用意していた。一つは家族と友達にあげる手作りチョコで、もう一つは内海くんにあげるデパートで買ったチョコ。
どうして内海くんには買ったチョコなのかと言うと、それは彼の料理の腕がプロ顔負けで、対して私は超が付くほどの料理下手だからだ。
内海くんはきっと下手な私の手作りチョコでも喜んでくれると思うけれど、約二か月前にもクリスマスケーキを作って大失敗していたため、さすがに気が引けてしまった。
それで悩んだ末に、内海くんにはチョコを買うことにしたのだけれど……。
「内海くーん……もしもーし」
「………………」
また無視。さっきから何度も声をかけているのに、内海くんは机に突っ伏したまま答えようとしない。
「ひかるには手作りやったのに……ずるい……」
代わりに、そんな恨めしそうな独り言が聞こえてくる。ひかるとは私の一つ下の妹で、内海くんの同級生だ。
どうやらひかるは、内海くんに私の手作りチョコを自慢したらしい。そして放課後、こうして内海くんの教室に来て、私が手渡したのが買ったチョコだったので、すねているのだ。
正直、そんなに手作りを期待されているとは思っていなかったので、驚き半分、申し訳なさ半分といった気分だ。
「……悠くん」
恥ずかしくて普段あまり呼ばない下の名前で呼ぶと、内海くんの肩がピクリと動いた。
「チョコ、もらってくれない? 悠くんに一番、もらってほしいんだけど……」
少しの沈黙のあと、内海くんが机に頬を付けたまま私に顔を向ける。
「……先輩はずるいです」
「やっぱり駄目……?」
「駄目やない。好き」
そう言うと、突然腕を広げて抱きついてきた。機嫌が直ったのはよかったけど、単純過ぎて少し心配になる。
「あの、ここ教室だから」
慌てて内海くんを引き離す。内海くんは不満そうに口をとがらせた。
「じゃあ、チョコあーんしてくれたり」
「も、もっと無理だよ」
私が言うと、内海くんは盛大なため息をついて、再び机に突っ伏す。
「つらい……先輩からの愛が足りん……」
私は困りきってしまった。そしてついつい、「ホワイトデーにね」なんて約束をしてしまったのだ。
まさか一か月後、内海くんがしっかり覚えているとも思わずに。
「先輩、あーん」
笑顔でもう一度マカロンを差し出されて、ようやく覚悟を決める。恥ずかしさをこらえて口を開けると、一口サイズのマカロンが口に入れられた。
「まだまだいっぱいありますからね」
次のマカロンを手に、内海くんはご機嫌な様子で笑っている。それを見ながら、私はもうその場しのぎの約束はしないと、心に固く誓った。
二人のこれまでのお話は、ポケット・ショコラ
『噂のあいつは家庭科部!』、
『噂の彼女も家庭科部!』で!
2020年3月には新刊『うわさのあのコは剣道部!』刊行!強くて凛々しくて女子に大人気な剣道部の王子様・須藤と、ふわふわ髪の美少女・葵の物語。「家庭科部!」の内海&さやかも登場しますよ。お楽しみに☆☆
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