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『ルーカス魔法塾池袋校 入塾者募集中!』特別ショートストーリー 二人の魔術師 バナー画像
学習塾に入るつもりだったのに、チラシを拾ったおかげで、「魔法塾」に入塾することになる中1男子・藍田颯太。彼の物語の第1章が始まる前のストーリーを、特別に公開します! 英国風パブで話しているのは、いったい誰と誰なのか──。

二人の魔術師

 木でできた古い建物の中に、うっすらとアルコールのにおいが漂う。
 そこは、狭くもにぎやかな英国風パブだった。昼間だというのに客入りはよく、ドリンクを片手に談笑している者が多い。
 パブのテレビでは、アニメがやっていた。
 アニメの中の魔法使いは、呪文一つで街を盛大に吹き飛ばしていた。悪者を懲らしめるだけのはずが、攻撃魔法の威力が強すぎたのだ。
 それを、奥の席で向かい合っている、ローブ姿の男たちがながめていた。
「なんだ、これは。こんな真似をできるやつがいるか。いたとしても、その膨大な力を無駄にふるうというのは言語道断。いいか。力を持つ者には責任があってな」
「まあまあ。これはアニメじゃないか。非実在系魔法使いだよ」
 しかめっ面でアニメを見ていた厳格そうな男を、温厚そうな顔の男がなだめていた。
厳格そうな男は、灰色の髪を後ろになでつけて、眉間に皺を寄せながら野菜ジュースを飲んでいる。対する、モノクルをかけた温厚そうな男は、ピンク色のカクテルを飲んでいた。
「貴様。昼間から酒か」
「まあ、せっかくパブに来ているわけだしね。それに、これはノンアルコールだから」
 モノクルの男は、「餡子(あんこ)と合うんだよ」とにっこりほほえみ、パブにはミスマッチな大福をほおばっていた。
「それにしても、貴様の『魔法使い』呼びは気に食わんな」
「そこを蒸し返す? 君、野菜ジュースで酔ったんじゃないか?」
 モノクルの男は、細い目を見開いてあきれた声を出す。「酔ってない」と、厳格そうな男はうなるように応えた。
「魔術師っていうとお堅いじゃないか。そりゃあ、伝統的な呼び方だと思うけど、私は魔法使いの方が好きだね。カジュアルで子どもでもとっつきやすいし」
「……貴様は子どもが好きだったな」
「君は、子どもが苦手なようだけど」
 にらみつける厳格そうな男に、モノクルの男は残念そうだった。
「子どもは無知だ。早く大人になるべきだ」
 厳格そうな男は、にべもなく言った。
「子どもは希望だよ。じっくりと成長を見守りたいね」
 モノクルの男は、のんびりとした様子でそう言った。
 二人の男は正面からにらみあう。
「そこは、貴様と俺の相容れないところだな」
「ああ。とても残念だ」
「ふん。じっくりなどと言っているから、貴様の塾生は増えないんだ」
 厳格な男は鼻でわらう。
「君こそ、入塾者を厳選しすぎているんじゃないか?」
 モノクルの男は、さらりと受け流す。
 次の瞬間、厳格そうな男は木でできた短い杖を構えた。
「我が魔術は伝統的な術式だ! 厳選してなにが悪い!」
「なっ……」
 杖の先から紫電がほとばしり、モノクルの男に襲いかかったが、彼もまた、とっさに杖をかまえた。
 すると、モノクルの男の前に、水晶のようにすきとおった障壁が現れる。障壁は電撃をはじき、バチバチという耳ざわりな音と火花が散った。
「まさか、パブの中で魔法を使うとはね。やはり、野菜ジュースで酔ったようだね」
 電撃がおさまったのを確認すると、モノクルの男は杖をひと振りする。すると、障壁は音を立てて崩れ去り、結晶の欠片(かけら)がダイアモンドダストのように散った。
「ふん。貴様が防御壁を展開するのを見越してのことだ」
 厳格そうな男は、いまいましげに吐き捨てる。周囲の客が二人の様子を見てざわついているが、気にした様子はない。
「そんな調子で子どもを教えているなんて、生徒たちがかわいそうだ」
「生半可な教師に教えられているほうが、かわいそうだと思うがな」
 二人はにらみあう。しかし、それも、テレビから聞こえる魔法少女アニメのかわいらしいテーマソングによって霧散した。
「……おい。さっきから、アニメばかりしか流れていないが、別のチャンネルにしたらどうだ」
 厳格そうな男は、カウンター奥にいる髭もじゃのマスターに指図する。しかし、クマのような体格のマスターは、「これでいいんだ」とどっしりした声で言った。
「魔術協会が作った、魔法使い系アニメの再放送専用チャンネルだ。現代において魔術師がどうするふるまうべきか参考にするといい」
「参考になるか! 第一、どうして魔術を使うために変身とやらをしなくてはいけないんだ! 魔法少女が魔女見習いのようなものならば、服装を変えなくても魔術が使えるだろう!?」
 厳格そうな男は、魔法少女アニメにも文句をつけはじめる。
それに対してマスターは、「魔法少女といっても様々な種類があってな」とあご髭をいじりながら語り始めてしまった。
 それを他人ごとのようにながめていたモノクルの男は、ため息を静かにつく。
「塾生……か。確かに、早いところ増やしたいところだな。せめて、あと一人は……」
 モノクルの男は、半開きになった自らの鞄を見やる。
 その中には、『入塾者募集中!』と大きく書かれたチラシが入っていたのであった。



『ルーカス魔法塾池袋校 入塾者募集中!』書影画像
『ルーカス魔法塾池袋校 入塾者募集中!』
著 / 蒼月 海里 絵 / himaro

◆Story◆
こんな塾なら絶対行きたい!
学習塾に入ったつもりだったのに、そこは魔法使いが教える魔法塾だった──

藍田颯太はゲームが何より好きだが、中学に入ったとたん、塾に通わされることになった。ある日、池袋の裏道で妙な生き物を助けたあと、格安個人塾のチラシを拾う。ちょうどいいので見学に訪れてみると、現れたのは片眼鏡をかけ黒いローブに身を包んだ洋風の顔立ちの先生。そこは、一般人は入れないはずの「魔法」を教える塾だったのだ。

入塾テスト代わりに塾生に挑まれた勝負に、なぜか勝ってしまった颯太。スライムが使えるテイラーの才能があると判明し、入塾してルーカス先生の教えを受けることとなる。

個性の強い先生や塾生たちとの絆、化学に通ずる魔法術のためになる説明、リアルな池袋感、日常と地続きで魔法塾の存在を味わえる楽しさが満載の、注目シリーズ第1巻!

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