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ほぼ週刊連載 幡野さんの日記のような写真たち

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 古賀史健さんに美味しいお鮨屋さんに連れていってもらった。久しぶりに古賀さんと会えたのが嬉しくて、たくさんいろんなことをしゃべったのだけど、出されたお寿司を食べるたびに会話が止まる。

 普通だったらモグモグゴックンしたあとに直前の会話を再開すればいいのだけど、お寿司の美味しさにおもわず唸ってしまうのだ。そして直前まで会話していた話の内容が、みごとに飛んでしまう。これは日本酒のせいもあるかもしれないけど、美味しいお寿司と日本酒の組み合わせは恐ろしい。

 ゴックンしたあとの会話の内容がモグモグしたお寿司のことになる。いま何を食べたのか知りたいのだ。もちろん大将は「これはサーモンです」といった感じで、食べる前に説明してくれる。ただモグモグゴックンしたこちらからすれば「いまのが…サーモン…なんですか??」とこれまでの人生情報と合致しないので、おもわず会話が飛ぶのだ。

 まるで美術館で現代美術の作品をみているときのような気分になる。美味しいを通り越して、おもしろいという感覚になる。会議や打ち合わせには不向きなほど、とても美味しいお鮨屋さんだ。

 大将は40歳前後ぐらいだろうか、ぼくとそんなに年齢は変わらなそうだ。ぼくは自分と同年代ですごい人を目の当たりにすると、自分の不甲斐なさのようなものを感じてちょっと凹んでしまう。同時に自分が寿司職人じゃないことに安心もする、もしも自分が寿司職人だったらきっともっともっと凹んでいただろうからだ。

 自分と世界が違うからこそ安心して美味しいお寿司を食べて、会話の記憶を飛ばせることができるのだ。世の中にはいろんな技術をもちわせた人たちがいるから社会が成り立っている。世の人がみんな寿司職人でも写真家でも社会は成り立たない。ラーメンだって食べたいし、マンガだって読みたい。そうやっていろんな技術を持った人がいるから、寿司職人だって写真家だって生きていけるのだ。

 自分の不甲斐なさにちょっと凹んだ感情は最終的に、いろんな人を尊敬して感謝をするいつもの着地点に到着する。

 ぼくは鯵が大好きだ。鯵を注文すると鯵は夏が旬だからいまの時期はまだオススメはしないと大将にいわれた。でもぼくは旬ではない時期の鯵を、大将ならどんな美術品に仕上げてくれるのか知りたい。

 「この時期の鯵は味が落ちているんですよ。」といいながら大将は握っている。おや?大将みたいな尊敬に値する仕事をしている人でも親父ギャグをいうんだ。急に親近感が湧いてきた。同年代の親父ギャグほど胸が躍るものはない。親父ギャグは大人になったことを自覚できる、葉巻やウイスキーと並ぶぐらいの数少ない嗜みだ。

 「アジだけにね。」ぼくは尊敬の念を込めて、大将にツッコミをいれた。関西的なツッコミではなく、関東的なツッコミだ。うどんの出汁と同様にツッコミだって関西と関東では違う。関西風ツッコミが主流かもしれないし、関西の人には関東風ツッコミなど物足りないだろうけど、はっきりいって関東風のツッコミのほうが繊細だとぼくはおもう。

 丁寧で繊細なツッコミをいれたけど大将は黙っていた、クスリとも笑わない。鯵と味をかけたのはどうも親父ギャグじゃないぞ。意図せずに偶発的に発生した“うっかり親父ギャグ”だったようだ。

 ぼくがくだらないツッコミをいれたことで、なんならちょっと気分を害したんじゃないか。ぼくが古賀さんの連れじゃなかったら出禁になってもおかしくないんじゃないかな。いや、きっとそんなはずはないのだけど、うっかり親父ギャグも含めて大好きになってしまったお鮨屋さんだ。

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