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俺が飛び込んだのは、わけありの死を迎えた人達の部屋を片付ける会社だった。
気ままなフリーター生活を送る浅井航は、飲み屋で知り合った笹川啓介の会社「デッドモーニング」で働くことになる。そこは、孤立死や自殺など、わけありの死に方をした人たちの部屋を片付ける、特殊清掃専門の会社だった。
「寿司を食いたい。でも我慢」と書き残して孤立死した老人。趣味の登山ブーツに遺書を忍ばせて自殺した会社員。同居している家族がいるにもかかわらず、死後2週間経つまで発見されなかった男性。クリスマスイヴに遺品整理を依頼してきた女性。そして、幼い子どもを道連れに心中した母親。死の痕跡がありありと残された現場に衝撃を受け、失敗つづきの浅井だったが、飄々としている笹川も何かを抱えているようで——。
生きることの意味を真摯なまなざしで描き出した感動作。
浅井航 … 気ままなフリーター生活を送る青年で、ポリシーはクラゲのように生きること。音声合成機能のある電子辞書を持ち歩いている。
笹川啓介 … デッドモーニングの社長。医療の知識が豊富。仕事時以外は、いつも喪服を着ており、飄々とした性格。
楓 … 廃棄物運搬業者。金髪で派手な化粧のギャル。口調も性格もきついが、根はやさしい。浅井よりも力持ち。
望月 … デッドモーニングの事務の女性。ふくよかで明るく、甘いものが大好き。得意料理は「望月スペシャル」なるスープ。
カステラ … デッドモーニングに出入りしている茶トラの猫。どこかの飼い猫らしい。
悦子 … 浅井が笹川と出会った居酒屋「花瓶」の女主人。柔らかな雰囲気の和風美人。
『跡を消す』 前川ほまれ[著]
ISBN978-4-591-15986-6/四六判/303頁 定価:本体1,600円(税別)
これは巷に溢れる“お仕事小説”とは一線を画した、「生と死」を改めて問う魂の小説だ——啓文社ゆめタウン呉店 三島政幸氏
“腑抜け”なフリーターが、優しさ、強さなど、少しずつ手に入れ成長していく姿は、凄惨な特殊清掃の現場に中に差し込む光のようで、まぶしくも感じました。様々な人たちの悲しい死から、今、そしてこれからも生きる者への無言のメッセージを確かに受け取る主人公の姿は清々しい読後感につながっていました。これがデビュー作とは思えない、まさに一気に読まされる小説でした。そして、強く心に残ります。
——株式会社うさぎや 高田直樹氏
死後放置され、影になってしまった人々を清掃する特殊清掃という仕事。特別な環境の特殊な人々の話ではないと思う。私だって、誰だって、誰にも看取られず死んでしまうことはきっとある。どのように死ぬかは本当は選べないのかもしれない。朝と夜を繰り返しながら、生きて死ぬ。朝日の中でも、真っ暗な闇の中でも、私たちは生きていく強さを持っている。——本の森セルバ岡山店 横田かおり氏
前川 ほまれ
ずっと「生活」という言葉が好きでした。なんとなく前向きになれる文字が並んでいるし、言葉の響きが個人的に心地良いからかもしれません。どこかですれ違う人々、通勤ラッシュの群衆、街を形成する家々。そんな光景を見つめながら、ふとした瞬間、この人はどんな日々を送っているのだろう、と想像を巡らせていることが、多くなっていました。それと同時にいつかは、そんな生活も消えてしまうんだな、なんて思ったり……。
本書を執筆している最中、ずっと考えていたことがあります。それは「私に誰かの人生を語ることができるのだろうか?」ということです。しかし、残された生活の断片を積み上げていくことで、そこに存在していた誰かの人生に少しだけ触れることが出来るような気がして、そんな予感を頼りに言葉を綴りました。
私たちの生活は似ているところはあっても、同じものは一つとしてないと思います。それぞれが営んでいるたった一つしかない生活の片隅に、この物語が寄り添うことが出来れば嬉しいです。

- 前川 ほまれ
- 1986年生まれ。宮城県出身。看護師として働くかたわら、小説を書き始める。2017年、「跡を消す」で、第7回ポプラ社小説新人賞を受賞。本作がデビュー作となる。
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