初心者向けの写真のワークショップを今年からやっている。ぼく自身がまだ中級者レベルだから初心者にしか教えられないという本当の理由はひた隠しにしているけど、写真とカメラに関する変な情報がはいっていない初心者のほうが教えやすい。
世界各国の賃金は上昇したけど日本の物価は上がらなかったことで、相対的に日本製のカメラが安くなったことと、スマホが普及したことで人類史上いちばん写真を撮る時代になった。20年前とは桁が違うであろう量の写真が日々撮られている。
明治くさいことをいってしまうけど、一昔前は写真にうつると魂が抜かれるといわれたほどで、写真を撮ることは当たり前ではなかった。昭和になっても正月や誕生日、旅行やクリスマスなどのハレの日や、人がたくさん集まったときに撮る特別なものだった。
だから写真を撮るときに失敗をしないように、キチッとカチッと撮ろうとする。写真にうつる人も緊張してキチッとカチッとする。カメラが普及すればするほど、写真が特別なものではなくなるので緊張からすこしづつ解放される。撮る人もうつる人も緊張が写真の敵だ。
人の魅力がまったく伝わらない写真の代表が履歴書の証明写真だと思う。撮るときに緊張するよねあれ。自分の魅力を伝えないといけないマッチングアプリで証明写真を使う人はほとんどいないだろう。緊張していない自然な写真にするものだ。
もしもペットがカメラを扱えて写真を撮れるようになったら、すごくいい表情の飼い主さんの写真を撮ってくれるだろうと、ペットを飼ってもいないのにニヤニヤと想像してしまう。自分のペットに緊張をしないし、ペットのことが好きだからだ。
ちいさな子どもがいる親は子どもの写真を撮りがちだけど、子どもに写真をとってもらうのをよくおすすめしている。子どもが描いたヘタな似顔絵が宝物になるように、ヘタな写真も宝物になる。ペットも子どもも写真は下手なんだろうけど、魅力が伝わるいい写真を撮ってくれるだろう。
緊張は写真の敵だけど、カメラを買った人はどうしても緊張をしてしまう。失敗をしちゃいけないと思ってしまうのだろうし、上手くなりたいとも思ってしまうのだろう。それはそれでいいのかもしれないけど、緊張していい仕事はできないものだ。
「失敗していい」「上手くならなくていい」「下手だけど、いい写真を撮ろう」ということをエラそうに教えている。写真上級者にとっては改宗のようなものだから初心者にしか教えられない難しさがあるのだけど、いい写真には上手いとか下手とかはあんま関係ない。
写真は誰かの宝物になる。社会をちょっとよくする力もある。写真を撮るのが当たり前の日常だからこそ、いい写真が社会に一枚でも増えるといいなと思っている。飛行機からの写真は息子が撮った写真。下手なんだけどお父さんはいい写真だと思います。