
朝から雪がふっている。すでに20cmぐらい積もっているけど、まだまだ積もらすぞと空から雪が落ちてくる。そんななか山の中で撮影をしている。雪がふってるときの山はとても静かだ。人はいないし車の交通量も減るのだろう、まったくもって音がしない。
上空を飛行機が通過したような音がする。直後に木々が揺れるので飛行機ではなく強い風が吹いた音だったのだと気づく。雪山が静かだから相対的によく聞こえるのか、音の質まで変わって聞こえるような気がする。
ぼくは雪の中で鉄砲を撃ったときの銃声が好きだった。コンクリートで囲まれた射撃場で撃ったときの銃声とは違う。バァーン!!という大きな銃声を積もった雪が吸収して、ドンッ!という音になる。そのあとに空に逃げた銃声が木々をサァァァ……と揺らす。雪山の銃声はドン・サーだ。ワビ・サビにも近いものがある。
そんなことを思い出しながら撮影していると、どこからかシャンシャンシャン……と聞こえる。聞いたことがない音だ。スマホからではない、車の音でもない。動物だろうか。ここまでにくる途中にイノシシを見かけた。冬眠しないクマもいる。いや、そもそも動物がこんな音出すか??
とにかく100m以内に確実に何かがいる。23年前に映画館で観た『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』を思い出して怖くなってしまう。23年ごしに映画を観たことを後悔した。一人で来るんじゃなかった。クマ撃退スプレーを持ってくればよかった。
車に戻るべきか、動かないでやり過ごすか迷う。動けばこちらの音が相手に察知されるだろう。カメラの三脚は傘並みに軽いカーボン素材だ、これじゃ戦えない。手元にある重くて硬いものはカメラだ。もしもクマに襲われたら三脚につけたカメラを石斧みたいにして頭を狙おう。
殺されるのではなく、相手を今夜の鍋にするんだ。それぐらいの気持ちを持たなければ、気持ちで負けてしまう。もう心理戦ははじまっている。シャンシャンシャンがだんだんと近づいてくる。なんだこの音、怖えぇ。
すると熊鈴をつけたおじさんがひょっこり出てきた。なんだおじさんかよ。熊鈴も雪で音が変わるのかな。熊鈴の音を聞いたクマもこうやって怖がるのかな。熊鈴のおじさんからすれば、誰もいない雪山で写真撮ってるおじさんも怖いよね。あぁ、よかった。