ポプラ社小説大賞は、第五回をもって終了いたしました。2011年度より、後継の賞として「ポプラ社小説新人賞」を実施しております。
ポプラ社小説大賞につきましては、ポプラ社が文芸書に本格的に力を入れていくにあたり、これまでにない賞を設け、意気込みを示したいという考えから創設いたしました。第五回の発表をもちまして、ひとまずその目的は達成できたと考え、「ポプラ社小説大賞」に区切りをつけ、現在は新人作家発掘に更なる力をこめる意味で、「ポプラ社小説新人賞」を実施しております。
第四回ポプラ社小説大賞は、大賞、優秀賞ともに該当作なしという結果となりました。
2009年2月の応募〆切以降、応募総数1179作品から、1次選考で31作品、2次選考で10作品を選出した後、最終候補5作品に対して最終選考会を行いました。
大賞については第二回、第三回と該当作なしが続いたこともあり、選考委員一同、今回こそは大賞作品を送り出したいという意気込みのもと選考に臨んでおりましたが、例年以上の力を感じさせる作品がなく、甚だ遺憾ながら該当作なしとせざるを得ませんでした。
審査委員長の、せめて優秀賞を出したいとの意向も強かったものの、選考委員一同での議論の末、無理な形での賞の授与は、作品と賞それぞれの今後のためにもすべきでないとの結論に至り、こちらも該当作なしといたしました。
この賞によって、真に力ある新しい作家を発見し、受賞作家とともに次の作品作りに取り組んでいきたいという私たちの意思は変わりません。
来年こそは大賞、優秀賞に値する作品に出会いたいと切に願っています。
次回となる第五回より、応募の〆切日をはじめ、募集要項を変更いたしました。
ポプラ社小説大賞は、ジャンルを問わず、あなたにしか書けないエンターテインメント小説を求めています。
来年の大賞受賞作となるべき、渾身の作品をお送りください。
心よりお待ちしております。
ポプラ社小説大賞事務局
事務局長 碇 耕一
2009年7月15日
(以下、応募受付順)
長いことスランプに陥っている小説家の環。環の家には、友人や編集者、親類、知り合い、ネコなどが時折訪れる。環は筆の進まない自分を反省し、自身の怠慢を憂いはするものの、訪れる者たちとたわむれるように、緩慢で安穏としたかわりばえのしない毎日を過ごしていく。ただゆるやかに続く環の日常を綴った作品。
豊かな語りで読者を引き込み、最後まで読ませる力がある。古風な言葉をちりばめた語りで綴られる思考の遠回り加減がリズムを生み、独特の雰囲気をかもし出している。しかしながら、ストーリーにほとんど起伏がなく、主人公のとりとめのない思考を綴っていくだけの作品としては長い。またひとつひとつの文章に対する推敲や拘りが不足しているという印象を受けた。
筆力を感じさせる書き手なので、今後の活躍を期待したい。
複数視点の群像劇。年齢も境遇も異なる男女の悪意が数珠つなぎとなって、連鎖していく。中年サラリーマン、アラサーOL、虐められる中学生、ストレスを抱えた女教師、等々がすれ違い、干渉し、意外な人物と衝突し、物語が転がってゆく。
多数の視点を絡み合わせ、群像劇として纏め上げた点には力量を感じる。展開もスピーディで読ませる。しかし読後は、あくまでも交通整理の行き届いたシナリオという印象を出なかった。登場人物の間で悪意が連鎖していく作品構成をとっているが、それがラストで大きな盛り上がりにはつながらず、肩すかしの感があった。捩れに捩れた登場人物たちの関係が、一次元高く昇華できていれば、と思わせるものがあっただけに残念である。
高校三年生の茅野瑞穂は、家庭でも学校でも物足りなさを抱えている。クラブやライブハウスの夜遊びで憂さを晴らしていたある日、インディーズロックバンド「エイリアンギターネイバーフッド」のライブに出会い、大きな衝撃を受ける。また、冴えない同級生だと思っていた山形吾郎が、実はそのバンドのギタリストであることがわかる。山形と親しくなるにつれ、瑞穂の日常は大きく塗り替えられていく。
主人公と山形の人物造形、エピソードを連ねて読者を飽きさせない構成など、エンターテインメントの書き手としてこなれた筆力がある。語り口が一定の水準に達している一方で、題材・描写双方に新味が薄く、既視感が拭えない。筆力を生かしたこの書き手ならではの物語を期待し、今回は賞に選出しなかった。
江戸末期の下諏訪宿。歌舞伎狂言の座付き作家・東千堂はようやくのことで安旅籠にたどり着く。彼が放り込まれた相部屋には、奇異な客ばかりが集っていた。江戸の医者を名乗る男、見た目が瓜ふたつの美形である旅回りの芸人姉弟、そして不思議な雰囲気をもつ、薬売りのむげんや。それぞれが一夜の慰みにと、自分たちの知る奇譚を語り始めて――。
人が誰でも心にもつ「もののけ」を実体化させ、一見怪談調に仕立てており、冒頭から引き込まれる。江戸末期の風物描写に説得力があり、独特のリズムで読ませる文章力とともに書き手としての可能性を感じさせる。しかし全体としてエンターテインメント性に乏しく、現時点で「面白い物語」を構築する力がやや不足していると考えられる点で、選考委員の意見が一致し、授賞を見送った。
母親、姉とともに、廃業した海辺のホテルに住んでいる中学二年生の郁子。父親は6年前に失踪し、そのことが残された三人それぞれに影を落としている。ある日、このホテルの一室に家出少年が忍び込んで暮らしているのを発見し、郁子は、家族に内緒で彼をかくまうが――。
廃墟のようなホテルで、かつて客室だった部屋をそれぞれに使って暮らす家族三人という設定は魅力的で、文章も端正で読ませる。ただ、人物造形が立体的でなく、物語の展開も中途半端でせっかくの設定を活かしきれていなかった。また、作中作の物語も効いていない。全体にぼんやりした印象になってしまっており、賞を逃した。