ポプラ社小説大賞は、第五回をもって終了いたしました。2011年度より、後継の賞として「ポプラ社小説新人賞」を実施しております。
ポプラ社小説大賞につきましては、ポプラ社が文芸書に本格的に力を入れていくにあたり、これまでにない賞を設け、意気込みを示したいという考えから創設いたしました。第五回の発表をもちまして、ひとまずその目的は達成できたと考え、「ポプラ社小説大賞」に区切りをつけ、現在は新人作家発掘に更なる力をこめる意味で、「ポプラ社小説新人賞」を実施しております。
12歳の直都が手に入れたのは、3分26秒間の出来事を削除することができる奇妙な装置。半信半疑だった直都だが、試しているうち次第に能力を実感し、仲間たちとともに不都合な事件を次々削除していく。次第に直都は装置に頼り始めるが、装置には深刻な副作用があった。装置が引き起こした混乱はついに、少年を衝撃的な事件に巻き込んでいく。
時空改変テーマのSFのような道具立てだが、主眼は装置そのものや由来ではなく、それを手に入れた少年の心の動きにある。主人公を始め、車椅子の親友、無口なクラスメイトの少女、引きこもりの兄など、一人一人の人物造形が際立っており、人間と人間が絡み合う物語を作っていこうという強い意志が感じられた。また、込み入った設定を疾走感をもって書き進める筆力と構成力を備えている。
一方、終盤の展開の速さに筆致が追いつかず、過去の事件の謎解きが十分になされていないなど粗い部分も見られ、完成度の点で他候補作に一歩譲るという意見もあった。最終的には、豊かで新鮮な物語を構築する将来性の点で優れており、第一回の大賞作品にふさわしいということで一致した。
三組の男女が、それぞれの場所で相手との関係を見つめなおしていく様子を、ある一昼夜を通して描くアンサンブルストーリー。彼らは実は同じ事件を目撃していた。みずみずしい感性を感じさせた。読後感があたたかくさわやかで、ある種のカタルシスも提供する。
類型的な部分もあるが、人を描く視点の希望と新しさで独自性を確保している。選考委員の年齢や得意とする小説のジャンルに関わらず、最も多数の評価を得た。読み手の読書経験や趣味によることのない、小説としての普遍的な面白さを持った作品だといえる。ただし、ストーリーテリングの巧みさに対し、小説として突出する何かを持ちえているかという点で議論となり、大賞ではなく優秀賞となった。
第二作、第三作と書き続けるうちに、さらに魅力的な作品を出せると期待している。
デパート屋上にあるペットショップで働く28歳のヒロインが、仕事先のタイで遭遇したさまざまな体験を通して、逃れつづけてきた過去の記憶と向き合う勇気をもつまでを、起伏に富んだダイナミックな展開の中で描いていく。
最終選考6作のなかで、もっとも評価が分かれた作品。三部構成をとっている本編は、ペットショップでのヒロインの日常をユーモア溢れる筆致で書き出した一部と、タイでヒロインが遭遇する数々のエピソードが、生命の躍動感と混沌の世界の中で表現される二部の間で、「一部」「二部」それぞれの不要論を含めて、選考委員の間で議論が紛糾した。
しかしながら、「幼少期のトラウマの解消」という、ともすると類型的になりがちな題材をもっとも自然にストーリーへと織り込み、エンターテインメントへと昇華させている技量は、人物・情景描写の甘さ、粗のめだつ会話文など、課題を残しながらも、作家としての将来性に大きな可能性を感じさせるという点で意見が一致し、今回の授賞となった。