ポプラ社 百年文庫

名短篇の本棚です

全巻ラインナップ

崖
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崖

ドライサー『亡き妻フィービー』
ノディエ『青靴下のジャン=フランソワ』
ガルシン『紅い花』


Illustration(c)Sumako Yasui

さあ、その場所から
飛び下りてみよ

「おうい、フィービー! ほんとに帰ってきてくれたのかい?」。亡き妻の幻を追い求め、必死に彷徨う老農夫の痛ましくも幸福な生涯(ドライサー『亡き妻フィービー』)。時は革命直後、フランスの田舎町で空との不思議な会話を交わす青年がもたらした驚くべき予言とは(ノディエ『青靴下のジャン=フランソワ』)。あの花にはあらゆる悪が集まっている、だから毟り取って殺してしまわねば――。閉ざされた病棟で世界を救おうとした男の誇り高き闘い(ガルシン『紅い花』)。それを狂気というのか。真実の高みを求める、汚れなき魂を描いた三篇。

著者紹介

ドライサー Theodore Dreiser 1871-1945
アメリカの作家、インディアナ州生まれ。16歳で単身シカゴへ出、職を転々とした後、新聞記者に。1925年の小説『アメリカの悲劇』が高い評価を得た。『シスター・キャリー』『とりで』など小説のほか、評論、エッセイ、戯曲を発表。

ノディエ Charles Nodier 1780-1844
フランス生まれの詩人、小説家。革命狂乱のなか波瀾の青春時代を送り、帝政崩壊後は図書館司書の傍ら、ロマン主義を牽引。フランス幻想文学の祖と仰がれた。1833年、アカデミー・フランセーズに選出。代表作に『炉辺夜話集』『パン屑の妖精』など。

ガルシン Vsevolod Garshin 1855-1888
南ロシア(現在のウクライナ領)に生まれる。1877年露土戦争に出征、戦場体験を描いた『四日間』で文壇的地位を確立した。中学時代から精神疾患の発作に苦しみ、33歳の若さで自ら命を絶つ。代表作に『夢語り』『紅い花』『信号』など。

編集者より

「崖」という言葉から、皆さんは何を連想するでしょうか。このタイトルは、本書の第1作目「亡き妻フィービー」のラストシーンに象徴されるように、それまで属していた場所、それまで持っていたとらわれのようなものに別れを告げるために、勢いをつけて跳躍する、そんなイメージを託しました。周囲からは風変わり、異端者扱いされて、理解されることはありませんが、最後まで誇り高く、信念を貫く主人公たちの生き様は非常に強烈で、物悲しくもありつつ、勇気づけられもします。ぜひご一読ください。(S)