ポプラ社 百年文庫

名短篇の本棚です

全巻ラインナップ

婚
52
婚

久米正雄『求婚者の話』
ジョイス『下宿屋』
ラードナー『アリバイ・アイク』


Illustration(c)Sumako Yasui

まさかの展開なのです
世にもおかしな物語

単刀直入を身上とする「鈴木君」は、道ゆく洋傘の女性に一目惚れし、30分後には結婚の約束を取りつけた。がむしゃらに夢を追う男の生きざまをユーモラスに描いた久米正雄の『求婚者の話』。下宿屋の娘と関係を持ってしまった青年が宿の「マダム」の術中にはまり、次第に追い詰められていく話(ジョイス『下宿屋』)。言いわけばかりしている野球選手「アイク」に美しい恋人ができ、試合でも大活躍!(ラードナー『アリバイ・アイク』)。結婚をめぐる珍騒動、おかしくて胸をうつ物語。

著者紹介

久米正雄 くめまさお 1891-1952
長野県に生まれる。一高・東大で菊池寛、芥川龍之介らと出会い、同人誌で競い合う。学生時代に戯曲『牛乳屋の兄弟』が話題になる。師・夏目漱石の娘に恋心を寄せたが叶わず、失恋を題材にした『蛍草』が評判を呼んだ。代表作に『受験生の手記』『虎』など。

ジョイス James Joyce 1882-1941
アイルランドの首都、ダブリン生まれ。大学卒業後、散歩の途中で知り合った ノラ・バークナルと恋に落ち、大陸へ渡った。今では20世紀を代表する傑作とされる『ダブリン市民』や『ユリシーズ』だが出版まではトラブル続きで困難を極めた。

ラードナー Ring Lardner 1885-1933
アメリカ・ミシガン州に生まれた。スポーツ記者として全米に名を馳せ、臨場感と人間観察にすぐれた記事はヘミングウェイら多くの愛読者をもった。「野球もの」をはじめ優れた短篇を残し、ヴァージニア・ウルフなどが高く評価した。

編集者より

王道な恋愛、結婚ものではありません。いずれも、結婚という人生の一大イベントをモチーフに七転八倒する人々のおかしみを描いた、ちょっと切なくて温かい物語です。中でも、スポーツ記者として野球ものを多く描いたラードナーの『アリバイ・アイク』は、海外短篇ならではのユーモアが楽しめる、おすすめの一篇です。読み終えるころには、言い訳ばかりする主人公のアイクのことが、愛おしくなっていることでしょう。11月22日(月)は“いい夫婦”の日。結婚している方はぜひお相手と一緒に、結婚していない方も、笑ってお楽しみください。(Y)