ポプラ社 百年文庫

名短篇の本棚です

全巻ラインナップ

地
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地

ヴェルガ『羊飼イエーリ』
キロガ『流されて』
武田泰淳『動物』


Illustration(c)Sumako Yasui

明日はあるのか?
地上をめぐる旅人たち

馬を追い野宿しながら暮らす孤独な少年イエーリにとって、幼なじみのマーラと交わした結婚の約束が何より心の支えだった――。純朴な若者がたどった過酷な運命の物語(ヴェルガ『羊飼イエーリ』)。毒ヘビに噛まれた男の一日を描いて鮮やかな印象を残す『流されて』(キローガ)。動物園の子熊に子どもが指を噛まれた――小さな「熊騒動」が大人たちの憎悪を呼び起こしていく。体面を繕いながら敵愾心を燃やす者たちの顛末(武田泰淳『動物』)。人間の傲慢さをくだく衝撃の三篇。

著者紹介

ヴェルガ Giovanni Verga 1840-1922
イタリアの小説家、劇作家。シチリア島の貴族の家に生まれる。フィレンツェやミラノの文学サロンに出入りし、『山雀物語』『エーヴァ』などロマン主義的作品を発表するが、後に故郷を舞台にしたリアリズム小説を執筆。代表作に『マラヴォリヤ家の人びと』など。

キロガ Horacio Quiroga 1878-1937
ウルグアイの小説家。ポー、ルゴーネスの影響を受け、詩や小説を書くようになる。アルゼンチン北部の密林を舞台に『アナコンダ』『ジャングル物語』などを執筆し、ラテンアメリカの短篇小説を確立した。

武田泰淳 たけだ・たいじゅん 1912-1976
東京・本郷生まれ。魯迅など中国文学に造詣が深く、中日文化協会在職中に上海で敗戦を迎える。敗戦体験をもとにした作品で、戦後文学の代表的作家として活躍した。代表作に『風媒花』『富士』など。

編集者より

電車でぐうぐう鼾をかきながら寝ているおじさんを見るとき。あるいは店で店員さんにクレームをつけている怒りを顕にした女性を目撃するとき。または紛糾している会議の席で……日々の生活の中で人間観察をしていると、ふと人間が動物のように見えてくる時、ありませんか? 『地』の巻に収録された3篇は、皆、動物(自然)と向き合って生きなければならない状況におかれた人間を描いています。けれども檻の中の動物をしっかりコントロールしているつもりでいても、所詮人間など自然の一部でしかない。そんな実感をもたらすこれらの作品に触れると、自分の周りに生息しているすべての「動物」たちに寛容になれる気がします。(R)