ポプラ社 百年文庫

名短篇の本棚です

全巻ラインナップ

憧
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憧

太宰治『女生徒』
ラディゲ『ドニイズ』
久坂葉子『幾度目かの最期』


Illustration(c)Sumako Yasui

生きることは罪ですか?
永遠の青春、その自画像

「自分は、ポオズをつくりすぎて、ポオズに引きずられている嘘つきの化けものだ」――。素朴な人間であることを願いながらも実生活を知らず、小さな出来事に夢想をひろげる少女の内面生活を描いた『女生徒』(太宰治)。パリの放埓な暮らしに疲れた若者が田舎の娘に恋をする『ドニイズ』(ラディゲ)。自ら命を絶つ直前に「小母さんへ」と書き出された久坂葉子の遺作『幾度目かの最期』。罪の意識と愛への憧れがほとばしる、青春の自画像ともいうべき三篇。

著者紹介

太宰治 だざい・おさむ 1909-1948
青森県北津軽郡生まれ。本名津島修治。中学時代より作家を志し、東大仏文科在学中より井伏鱒二に師事。『晩年』で文壇デビューを果たす。『人間失格』を書き上げた翌月、玉川上水で入水自殺。主要作に『富嶽百景』『走れメロス』『津軽』『斜陽』など。

ラディゲ Raymond Radiguet 1903-1923
フランスの詩人・小説家。詩人ジャン・コクトーから詩を高く評価され、パリの作家や芸術家との交流が始まる。『肉体の悪魔』で大きな話題を呼ぶが、2作目となる『ドルジェル伯の舞踏会』執筆直後に腸チフスにかかり、20歳の若さで死去した。

久坂葉子 くさか・ようこ 1931-1952
神戸市生まれ。本名川崎澄子。島尾敏雄の紹介で同人誌「VIKING」に参加。18歳で書いた小説『ドミノのお告げ』が芥川賞候補に。戯曲、ラジオドラマなど活動の場を広げ、活躍が期待されたが、21歳で自殺。他の作品に『入梅』『幾度目かの最期』など。

編集者より

彗星のように文壇に登場した三人の作家。その作家たちが短い人生の中で放った強い「光」を収録した巻です。『女生徒』は既読の方も多い作品と思いますが、今改めて、なぜこれほどまでに少女の心の動きを描き出せるのか? と、太宰の内面に潜む「女性性」と闇の深さを思わずにはいられません。まるでアイドルに永遠の処女性を見出すかのような「憧れ」の強さの背景には何があるのか。これを機に太宰の作品をもういちど読み、もっと深く知りたいという気持ちになります。久坂葉子は、早熟な才能で作家活動の前途を期待されながら鉄道自殺でこの世を去ってしまった伝説的な作家。その遺書のような一篇を収録しています。手の届かない場所にあるからこそ、思い続けてしまうもの……「憧れ」の欠片をここに集めた1冊です。(R)