北の大地のすがすがしい物語『エカシの森と子馬のポンコ』
『エカシの森と子馬のポンコ』(加藤多一 作 / 大野八生 絵)が第67回青少年読書感想文全国コンクール・小学校高学年の部の課題図書に選ばれました。
物語の主人公・ポンコは北海道の美しい森で暮らす子っこ馬。牧場から逃げだして、いまは長老の木・エカシや「ここにいるのに、どこにでもいる」不思議な存在のカメムシたちといっしょに毎日を過ごしています。
そんな毎日を楽しく過ごしているけれど、あるときエカシに言われます。
「心も体もおとなになりかけている」と。
おとなになるってどういうこと? ポンコは何かが変わってしまうようで、不安な気持ちになります。
こうしたポンコの思いは、小学校高学年のみなさんにも共感してもらえることでしょう。
そして、そんな気持ちを抱えながらも、希望を持ってわたしらしく生きるポンコのすがたに、勇気と力を得てもらえることと思います。
本作の魅力はポンコの生き方だけではありません。北の大地の美しい自然のうつろいが、加藤多一さんの紡ぐ繊細なことばで描写され、そこに寄り添う大野八生さんの絵がイメージを大きく広げてくれます。読みながら、まるで森の散歩をしているようなすがすがしい気分を味わうことができます。
加藤多一さんからこどもたちへ──
本作を読んで感想文を書いてくださるみなさんに、作者の加藤多一さんからメッセージをいただきました。
いま、学校も教室もかなり息苦しいと思います。
でも、学校生活は永遠に続くわけではありません。
学校を卒業したあとの方が、人生は何十倍も長いのです。
いまみなさんが胸のなかで育てた疑問を一生なくさないように大事にしてください。
そのことが、社会が少しでもよくなるきっかけになることはまちがいありません。
加藤さんは「ほんとうの子どもの心を信じてます」とも語ってらっしゃいます。
「おかしいな?」と思うおとな社会のありように、まっすぐな視線を向けるこどもたちの心を信じて、この作品を紡いでいったそうです。
北の大地を自由に生きるポンコのすがたは、読者のこどもたちがのびのびと毎日を過ごしてほしいという加藤さんの願いでもあります。
夏休み、
『エカシの森と子馬のポンコ』をたくさんのこどもたちに読んでいただけたら、こんなにうれしいことはありません。
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- 加藤多一 (かとう・たいち)
- 1934年、北海道紋別郡滝上町の農家に生まれる。小樽市在住。北海道大学卒業後、札幌市職員、稚内北星短期大学教授を経て、執筆活動に専念。北海道を舞台にした多くの作品を手がける。おもな作品に、『白いエプロン白いヤギ』(偕成社)、『ふぶきの家のノンコ』(第1回北の児童文学賞、岩崎書店)、『草原 ぼくと子っこ牛の大地』(第26回日本児童文学者協会賞、あかね書房)、『遠くへいく川』(第22回赤い鳥文学賞、くもん出版)、『兄は沖縄で死んだ』(高文研)などがある。
- 大野八生 (おおの・やよい)
- 千葉県に生まれる。園芸好きの祖父のもと、幼いころから植物に親しむ。造園会社勤務を経て、フリーのイラストレーター、造園家として活動。おもな絵本作品に、『じょうろさん』(偕成社)、『みんなの園芸店 春夏秋冬を楽しむ庭づくり』(福音館書店)など。装画・さし絵を手がけた作品に、『ヤマトシジミの食卓』(くもん出版)、『ぼくの、ひかり色の絵の具』(ポプラ社)、『はじまりの夏』(あかね書房)などがある。