▲左)『あっ ごきぶりだ!』 右)柳澤静磨さん自画像
静岡県の
竜洋 (りゅうよう)昆虫自然観察公園の職員として働く、柳澤静磨 (やなぎさわ しずま)さん。各方面で話題となった『ゴキブリ展』や『GKB48総選挙』の仕掛人であり、「ゴキブリスト」としてHPやSNS、講演会などで、日々精力的にゴキブリの魅力を発信し続けています。
そんな柳澤さんに、ひと足先に絵本
『あっ ごきぶりだ!』をよんでもらい、ゴキブリをテーマにコラムを書いていただきました!
――今でこそ「ゴキブリスト」を名乗っていますが……
「ピンと伸びた触角に、美しい彫刻を施されたようなハネ、すらっと長くトゲのあるしなやかなアシ。ゴキブリって、とてもかっこよくて美しいですよ!」
こういう話をすると、ほとんどの方が苦笑いを浮かべます。
私は竜洋昆虫自然観察公園という施設で昆虫担当の職員をしています。一番好きな昆虫はゴキブリ。その魅力を伝えるために、ゴキブリの展示、イベントなどに力を入れています。最近では施設外で主催される講演会にも呼んでいただけるようになったのですが、そういった場で「ゴキブリって面白いですよ!かっこいいですよ!きれいですよ!」とその魅力について語っていると、「子供の時から好きだったのですか?」とよく質問されます。実は数年前まで私はゴキブリが大嫌いでした。なぜなら、動きが早いし、走ったり止まったり飛んだり、予想のできない動きをします。さらには無断で家に入ってきたりもします。彼らが特に何もしてこないことはわかっていますが、もし体を這ったらとか、こちらに向かってきたらと思うとゾッとします。今でこそ「ゴキブリスト」を名乗っていますが、少し前であればゴキブリがチラッと視界に入れるだけで大騒ぎでした。
――ゴキブリは「嫌われている」ことも魅力の一つ
今回、絵本
『あっ ごきぶりだ!』を読み、当時小学生だった私の家にゴキブリが出た時のことを思い出しました。リビングに現れたことで夕飯後のテレビタイムは大騒ぎになり、一家全員大慌てだったことを覚えています。まさに『あっ ごきぶりだ!』と同じ状況です。当時はまだゴキブリストではなかったため、私は母、弟と共にリビングから離れ、ゴキブリが走ってきても大丈夫なようにイスの上にしゃがむように避難して、ゴキブリに立ち向かう父を応援していました。家族のためにティッシュ片手にゴキブリに立ち向かっていく、あの時の父の背中は忘れられません。
私はいろいろな方とゴキブリの話をする機会が多いのですが、面白いエピソードを持っている方は非常に多いです。「夜にキッチンに行ったらとても大きなゴキブリがいて悲鳴をあげた」や「顔に向かって飛んできた」といった恐怖体験から「おばあちゃんが手づかみで捕まえて外に逃がした」という家族の新たな一面を見た話など、その内容は実に様々。ゴキブリに関わる話というのはみなさん鮮明に覚えているようです。良い言い方をすれば「思い出に残っている」のだと思います。私の場合も、ゴキブリの姿が目に焼きついて離れず、また出るのではないかという不安からなかなか寝つけない夜の恐怖を、今もはっきりと思いだすことができます。しかし、大慌てだったあの時間と父の勇姿など、今となっては家族とのいい思い出です。
私はゴキブリが「嫌われている」ことも魅力の一つだと思っています。理由はいろいろあると思いますが、まったく興味がないのではなく「気になるあいつ」だからこそ無視できないのだと思います。
もし、みなさんの家にゴキブリが出ることがあったら、きっと思い出に残る一日になるだろうと、一つ深呼吸してみてください。そしてゴキブリに向き合ってみてください。このゴキブリのおかげで一つ新しい思い出ができるんだ、そう思うと少しゴキブリが愛おしくなったり……するかもしれません。
- 柳澤 静磨 (やなぎさわ しずま)
- 東京出身。新潟での学生生活を経て静岡県の竜洋昆虫自然観察公園の職員となる。ゴキブリは大の苦手だったが、2017年に石垣島にてヤエヤママダラゴキブリ、ヒメマルゴキブリと出会い、その面白さに気づく。現在はゴキブリストを名乗り、展示・イベント・講演会などでゴキブリの魅力を発信している。
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