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人が生きる姿に希望がある『ヒロシマ 消えたかぞく』著者・指田和さんインタビュー

2019年7月に刊行された写真絵本『ヒロシマ 消えたかぞく』の著者・指田和さん。絵本にたずさわるきっかけから、今回の作品にこめた思いを伺いました。

指田和さん
▲指田和さん

ノンフィクションを絵本でえがく

――事実を取材して、そのエピソードをそのまま絵本にまとめる「ノンフィクション絵本」の手法はどのようにはじめたのですか?

指田 出版社に勤めていたころ、子ども向け雑誌の編集をしていました。興味のあるところにどんどん取材に行って記事にできるいい時代でしたね。そこで取材して書くことの楽しさを知りました。退職したあと、では自分に何ができるのか迷った時期があって、アメリカに行ったりもしたんです。アメリカでは現地の絵本をたくさん見て、日本語に翻訳されているものもいないものも、すぐれた作品がたくさんありました。そこでやっぱり子どもの本が好きだな、と実感したんです。
帰国してからは編集の仕事を少しずつしている中で出会ったのが、『あの日をわすれない はるかのひまわり』(絵・鈴木びん子/PHP研究所、2005年)のもとになったエピソードでした。地元埼玉のFM局NACK5の「神戸でひまわりの種をまいている女の子がいる」という数分のニュースを聞いて、阪神淡路大震災後しばらく災害ボランティアをしていたこと、その後行けていなかったこと、なにかできることがあったらしたいという気持ちがぐっと湧き上がって、すぐに神戸に向かったんです。情熱ってすごいなと自分でも思いますが、そのエピソードから一冊の絵本をまとめることができました。

『あの日をわすれない はるかのひまわり』
▲『あの日をわすれない はるかのひまわり』

指田 たくさんのかたからお話を伺いましたが「こんなに大きなひまわりだったんだよ、空に向かってさあ」って聞くと、絵が浮かんでくるんです。子ども雑誌では童話も担当していたので、物語があると「このお話には、だれのどんな絵を添えて誌面にしようかな」と考えるんですね。写真でノンフィクションを語るという方法もあるとは思うんですが、そのときのわたしには絵で語る絵本という形がいちばんぴったりきたんです。でも後付けで考えてみると、そういう本って実はあまりなかった。

――そうなんです。とても新鮮でした。本文もそうですが、最後にある解説ページもとてもわかりやすく、引き込まれます。

指田 出来事を追いかけているときは必死で、全体を見る視点がなかなか持てないんです。少し冷静になるというか、客観的になるためもあって、絵本の最後に解説の記事をつけています。その解説を書くためにあらためて調べていて、本文はほとんど完成しているのに、その時点ではじめて知る情報もあったりして(笑)。
逆に、取材の中では聞けなかった内容を、解説の場を借りて引き出しているところもあります。わたしの取材はその後もずっとそうなんですが、ボランティア活動や地元のイベントに参加して、その場で地元のかたと会ってお話を聞いています。そのような方法だと、あらためて立ち入ったことは聞きづらいんですね。何度も会って一緒に食事もしているのに、つらい体験の核心はなかなか聞けない。それはわたしの弱さだなとも思いますが、解説という場をもつことで、あえて伺えたお話もあります。

『ヒロシマ 消えたかぞく』解説ページ
▲『ヒロシマ 消えたかぞく』解説ページ

指田 ただの解説ではなくて、わたし自身の発見の過程や気持ちが乗ることで、読者の子どもたちにも伝わるのかなと思っています。小学校の先生がたからも「解説ページがいい」とよく言われます。先生がた自身も経験がなかったり、知識があまりないことを子どもたちに説明しなければならないときに、最低限の事実がまとまっているページがあるのがありがたいと。
物語のみに語らせるべきだと考えるなら、解説はひょっとしたら余分なのかもしれませんが、わたしのスタイルとしては全体でひとつだと思っています。

――広島と原爆をめぐる作品を、いままでも何作か手がけられていますが、どのようなきっかけからですか?

指田 広島とかかわりをもったのは、先ほどの神戸のひまわりからなんです。神戸の東遊園地で震災の慰霊イベントに参加していたら、取材でお世話になったかたから「広島のひまわりおじさんです」と、田原さんというかたを紹介されて。すれ違うような出会いだったんですが、ひまわりの本を送ったりして縁ができて。2005年の夏、何十年ぶりかで広島を訪ねたんです。
田原さんは広島市のとなりの海田町でひまわりを育てる活動をされていました。海田町の町の花がひまわりなんです。育てるならなにか意味のあるひまわりを育てたいと考えていたところに、神戸のひまわりのことを知ったそうです。
伺ったのが8月6日だったので、海田町の平和記念式典にも参加させてもらって。
式典が終わったあと、終わっているのに、なぜか壇上におばあさんが立って「わたしは平和が大事だと思います」と滔々と語りはじめたんです。そのおばあさんが、『ヒロシマのいのちの水』(絵・野村たかあき/文研出版、2009年)の主人公になるかただったんです。

『ヒロシマのいのちの水』
▲『ヒロシマのいのちの水』

――なるほど! 現地に行くことで縁がつながっていくんですね。

指田 広島を訪れたことで、たくさんのかたと知り合うことができました。「被爆したピアノを復元したから、今後演奏活動などしていきたい。協力してもらえないか」とお声がけがあって『ヒロシマのピアノ』(絵・坪谷令子/文研出版、2007年)が生まれました。見てもいないのに協力もできないと思って、すぐに広島に行ったら、地元の中学生がすごく元気に弾いていて驚きました(笑)。しんみりかわいそうな感じじゃないんです。すごいエネルギーだと。その力にひかれて、日本中をまわるピアノの演奏会を裏方として手伝いながら取材しました。
『ヒロシマのいのちの水』はそのあとですね。演奏会が広島に来るたびに、そのおばあさんが会場に来ているんです。『ヒロシマのピアノ』の刊行祝いにお好み焼きを食べに連れて行ってもらったら、またその場にもいる。そのときやっと「この人はすごい人なんだよ。何十年にもわたって、原爆の慰霊碑に清水を供えつづけているんだよ」と紹介されて、絵本につながりました。
取材で何度も広島を訪れて、その折々に広島平和記念資料館には行っていました。そのとき出会った、アメリカから寄付された人形を取材したのが『海をわたったヒロシマの人形』(絵・牧野鈴子/文研出版、2011年)です。
アメリカとも縁があって、曾祖父が大正時代、渡米したまま一時期行方がわからなくなるということがあったんです。アメリカも行きたい、調べてみたいと思わせる特別な場所ですね。
広島での取材の思い出や、絵本で書ききれなかったことを、読み物『ヒロシマのいのち』(文研出版、2017年)にまとめました。

ひとつの家族が残したもの

――新刊『ヒロシマ 消えたかぞく』は、広島の一家族が残した写真にお話をつけた絵本ですね。ほかの本とどんなちがいがありましたか?

指田 写真に残った鈴木さん一家と、わたしはもちろん一度も会っていないわけですが、いままでの本でいちばん距離が近かった気がしています。声が聞こえてきたような。一家の親戚で、アルバムと写真をずっと保存してきてくれた鈴木恒昭さんのお話があってこそなんですが。
長男の英昭くんや長女の公子ちゃんが生まれてから十数年分、数百枚から千枚はある写真を年代を追ってみていくことで、一緒に育っていくような気持ちになりました。

――絵本を読んで、写真を撮られた一家の父親、鈴木六郎さんのセンスや技術も素晴らしいなと思いました。添えてある短い言葉もすてきで、これは「アルバム作家」といっていいんじゃないかと。

指田 本当に、構成力も含めてみごとですよね。同じ写真がいろいろなサイズに引き伸ばされて、何度も貼ってあったりするんです。当時は自分で現像し、ベタ焼きをして印画紙に焼き付けるわけです。その作業が楽しかったんでしょうね。技術が上がっていくのが写真からも伝わってきました。記録としてもとても正確なんです。いつ撮ったのか、どこで撮ったのか、しぼりがいくつで印画紙の種類はこれで、と。日付と場所がはっきりわかるのはとても助かりました。

『ヒロシマ 消えたかぞく』4~5ページ
▲『ヒロシマ 消えたかぞく』4~5ページ

指田 元の写真はほとんどが証明写真くらいの大きさで、とても小さいんです。また、昭和18~19年ごろから写真がほとんどなくて、末の昭子ちゃんの写真は残っていません。戦争が終わったらたくさん撮ろうと思っていたでしょうね。アルバムになったものだけでなく、プリントした写真も箱で残っていたので、整理ももっとしたかったでしょう。
いまはデジタルでたくさん撮って撮りっぱなしにしてしまいますが、撮って記録を残す、紙に残すことも必要だなと感じます。

鈴木家のアルバム
▲鈴木家のアルバム

――鈴木家はどんな一家だったんですか?

指田 六郎さんは十人きょうだいの6番目で六郎さんなんです。とにかくみな仲がよくて。六郎さんが小さいころに病気で耳が聞こえにくくなってしまったこともあって、生業の理髪店もきょうだいがお金を出しあって建てたそうなんです。一番上のお兄さんは東大の医学部で非常に優秀な成績をおさめ、次のお兄さんは同じく東大の農学部に進まれたそうです。努力家で、まめで、勤勉で、特別裕福ではなかったけれど、仲良く助け合う家族だったんだと思います。これは恒昭さんがおっしゃっていたことです。

――絵本の制作はどのように進められましたか?

指田 まずはとにかく写真を読み込みました。家族や親戚のことにも詳しくなりました。たとえば「六郎さんが写真を撮っているところの写真はないですか」とデザイナーの高橋(雅之)さんに聞かれてみんなで写真を探していたとき「あった!」とおっしゃるその写真を見て「ちがうんですよ、これは知り合いの○○さんなんですよ」と即答できたりして。
とはいえ、恒昭さんから最初に写真をお預かりしたときは重く感じて、なかなか箱を開けられませんでした。見始めてみると「どうしていままで見なかったのか」というほど楽しくなり、夢中になりました。写真の力とともに、人間関係や出来事を読み解いて解読していく楽しさもありました。
お母さんは忙しくて、おしゃれした写真があまり残っていないんですが、子どもたちはワンピースやかわいい服を着ています。戦争が激しくなるほんの数年前まで、ふつうの人の豊かな暮らしがあったこともよくわかります。
この写真は使いたいな、と思う写真を選ぶのも楽しかったです。夏休みにみんなで勉強をしている写真なんかは、まさにいまの子どもたちにも身近に感じてもらえると思いました。

プリントした写真を手にする指田さん
▲プリントした写真を手にする指田さん

――絵本の文章で、公子ちゃんを語り手にしたのはなぜですか?

指田 公子ちゃんは、わたしの父と同じ年なんです。それに気づいたときは愕然としました。アルバムを見て、公子ちゃんと友達になったような気持ちでいたところに、生きて年を重ねていれば父と同い年だったんだと。わたしと同じくらいの子どもがいたかもしれない、どんな人生があっただろうと思うと、失われた未来の大きさがよりリアルに感じられました。もともと写真を見ながら公子ちゃんに自然に感情移入していたこともあって、公子ちゃんに語ってもらうことにしました。

――『ヒロシマ 消えたかぞく』が刊行されたいま、どんな願いをもっていますか?

指田 実は、本に使うかどうかは関係なく、ぴんときた写真を残したいと思って、150枚ほどプリントしているんです。現像や焼き付けを楽しんでいただろう六郎さんに近づけるかな、という気持ちもありました。この本や、そのほかの写真をきっかけにして、戦争や平和、また家族について、いまの子どもたちと直接対話する機会がもてたらいいなと思っています。
また、このアルバムとの出会いは広島平和記念資料館での「新着資料展」だったんですね。展示替えはとても大掛かりになってしまうので、新しく寄付された資料などはなかなか展示ができないそうなんです。資料館の担当者のかたもそれを残念に思っていて、絵本の形で収蔵資料を見てもらえるのはとてもうれしいと話してくださいました。
資料館の掲示物にはすべて英語の文章が添えられています。この『ヒロシマ 消えたかぞく』にも英訳文を載せることができました。資料館でも販売していただいていますので、訪れる多くの国の人に持ち帰ってほしいですね。

――今後はどんな絵本を書いていきたいですか?

指田 過去にあった悲しい出来事についてではなく、絵本はもっと夢や希望を描くものでは? と言われることがあります。夢は……ないかもしれませんが、わたしはいつも希望を描いているつもりです。
世の中、良いことばかりではなく、本当にいろいろ悲しいことや理不尽なこともあるけれど、そんな中でも精一杯生きようとしている人間や自然や暮らしがあること。それ自体が望みだと思うから、生きつづけているし、書いています。それを実感したのは、東日本大震災のあと、毎年お盆に行われていた野球大会を復活させる『ぼんやきゅう』(絵・長谷川義史/ポプラ社、2018年)を書いたときですね。出会ったおじさんたちの人臭さ、おかしさ、どんなことがあっても生きていくタフさこそが希望だと思っています。人間の力強さが感じられるお話を、これからも追っていくつもりです。


プロフィール

指田 和 (さしだ・かず)
埼玉県生まれ。出版社で子どもの雑誌、家庭雑誌などの編集を経た後、フリーとなる。いのちや自然に関するテーマにひかれ、取材し作品にしている。児童文学者協会会員。
写真は4歳の指田さん(昭和47年初め)。肩車に乗っているのは妹さん。



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