一気読み必至、問答無用の著者最高傑作
『かがみの孤城』刊行記念
辻村深月インタビュー

デビュー以来、十代の抱く切実な思いを描き、多くの読者の熱い支持を集めてきた辻村深月さん。
近年は大人たちを描いた作品でも高く評価されてきました。
その辻村さんが『かがみの孤城』では再び十代の姿を描きます。
作品にこめられた思いを伺いました。

Interview1

学校での居場所をなくし、どこにも行けずに部屋に閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然、鏡が光り始めた。
輝く鏡をくぐり抜けた先には不思議な城があり、似た境遇の7人が集められていた。

Interview1

満を持しての十代の物語

今年でデビュー13年目なのですが、最近、デビュー作やそれに続く十代の物語を書いていた時期を指して、「初期の頃」という言い方をされるようになってきました。長く読者でいてくださる方たちがそう呼んでくれているのですが、一方、今それを初めて読みました、という十代の子たちもいます。そんななかで、青春小説とか学園小説と呼ばれる十代の子たちの物語を色々な形で書いていくというのが、自分のライフワークなのだろうなと思っていました。

最近の作品は「大人向け」とか「最近の辻村深月」と呼ばれていますが、そういうものを書いてきた今だからこそ、改めて十代の子たちを全力で書きたいと思ったんです。自分の中で満を持して選んだ主題が、この『かがみの孤城』になりました。

学校に行かない

私自身もそうでしたが、今も昔も、学校に対して、窮屈だな、行きたくないなという気持ちを抱えながらも、表向きはうまくやっているように見えるという子がほとんどなんだと思うんです。

だけど、実際にそこから休むとか学校に行かないっていう選択をした子たちというのは、私の中では十代のときから、自分に持てなかった勇気をもった子たちだと思えていたところがあります。

そういう子たちを描くことで、今現在表向きはうまくやっている、という子たちの気持ちも一緒に掬いとれるのではないかと思ったんです。

そうしてこの作品の中に出てくる7人の中学生の子たちが出来ていきました。

鏡の向こうの世界

今考えてみると、中学時代ってほとんどが家と学校の往復なんですよね。塾や近所のショッピングモールみたいなところに行くとしても、本当に半径数キロくらいのところでしか生きていない。

でも、私自身の中学時代を振り返ってみた時に、そのことを意外に思うくらい、中学のときが一番、いろんなことやったり、いろんな場所に出かけたりしていた気がするんです。それはなぜかと考えてみると、たぶん本を読んでいたからなんですよね。

本を読むというのは他人になることですし、本の世界を見るというのが、ある意味超常現象みたいなことで、異世界に連れて行ってもらえるのと同じ。鏡がどこかと繋がるというのは、私にとっては本を開いて本のページの向こうに行くような感覚で、その想像の延長線上が今回の設定になったんだろうなと思います。

中学生だった頃

中学生の頃、やっぱり本が大好きでした。今の自分を作ってくれた本というのは、大半が中学校から高校にかけて出合った本だと思います。大学以降ももちろん読みましたが、それ以前の本は、一冊一冊、もう自分の一部みたいな気持ちで読んでいたような気がします。

中学時代は書いた小説を友達に読んでもらうことも多くなっていました。そこで一生の親友にも出会いましたし、辻村深月という作家を作ってくれたものと出合った、自分の人格形成の時期だったと思います。

書き終えてみて

書いているときはそんなに感じなかったんですけど、書き終わってみると、デビューしたてのときの自分が書いていた十代とは書き方が違っているし、そのときの自分では書けなかったことが書けるようになったと思いました。

十代を書いていくということについては、当時の思いを忘れていってしまうとか、昔の自分は書けていたものが今の自分にはできなくなっていくんじゃないかと、ずっと自分の中では恐怖もあったんです。

でも、そうじゃないんだとわかりました。そのときの感性を失ってしまうわけではなくて、ちょっと距離を置いて、お前らの気持ち分かるよ、分かるけど大人にも大人の事情があってね、っていうところが書ける。それに「大人になれば分かる」っていうのは逃げ言葉でもあると思うんですけど、「大人になったからこそ分かるけど、あなたたちのしていたことは卑怯だった」と大人を断じることも出来るということなんです。

より大人と子どもの書き方が公平になってきたかなと思います。

自信作です

私は本が大好きな中学生で、そこはもう読者ですから、それこそ好きなように、いろんな作家さんに対して図々しくも「最近ちょっと展開がマンネリ化してる」なんてことを思ったりしていました。昔の自分がすごく目が厳しいわがままな読者だったっていうことも踏まえて、やっぱり自分の本は、中学時代の自分に向けて書いているような気がするんですよね。

中学時代の自分みたいな厳しい読み手に、大人になってこんなの書くようになっちゃったんだって思われたらおしまいだと思っています。

もしタイムマシンが開発されて、自分の本を何か一冊昔の自分に送れるとしたら、私は『かがみの孤城』を選びます。 きっと当時の私が「この本を書いた作者のことを尊敬する」って言ってくれるような作品になったんじゃないかなと思っています。

満を持しての自信作です。

よろしくお願いします!

インタビュー動画

書誌情報

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『かがみの孤城』

辻村深月

あなたを、助けたい。
学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――
なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。

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定価:本体1,800円(税別)発売中
詳細:詳細はこちら

『かがみの孤城』特設サイト

著者プロフィール

西加奈子

辻村深月(つじむら・みづき)

1980年生まれ。千葉大学教育学部卒業。2004年『冷たい校舎の時は止まる』でデビュー。『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞を、『鍵のない夢を見る』で第147回直木賞を受賞。他の著書に『凍りのくじら』『ぼくのメジャースプーン』『スロウハイツの神様』『島はぼくらと』『ハケンアニメ!』など多数。