ポプラ社 百年文庫

名短篇の本棚です

全巻ラインナップ

夜
9
夜

カポーティ『夜の樹』
吉行淳之介『曲った背中』
アンダスン『悲しいホルン吹きたち』


Illustration(c)Sumako Yasui

夜汽車の窓に
流れゆく星のかなしみ

凍てつくような冬の夜、汽車に乗り込んだ若い娘は同席した客の荒んだ気配にたじろぐ。車中の会話に人生の悲哀がのぞくカポーティの『夜の樹』。戦後の安酒場、暗い背中をした男の哀しい出来事(吉行淳之介『曲った背中』)。家族に災難がつづき自立を余儀なくされたペンキ屋の息子ウィルは、就職口を見つけようと故郷を旅立つ。大人社会に飛びこんだ少年の覚悟と出会いの物語(アンダスン『悲しきホルン吹きたち』)。心の奥に流れるブルースのような三篇。

著者紹介

カポーティ Truman Capote 1924-1984
アメリカの作家。ルイジアナ州生まれ。少年時代から作家を志し、デビュー短篇『ミリアム』で注目を集める。ベストセラーを記録した『冷血』で、ノンフィクションノベルというジャンルを開拓。その他の代表作に『遠い声 遠い部屋』『ティファニーで朝食を』など。

吉行淳之介 よしゆき・じゅんのすけ 1924-1994
岡山市生まれ。東大文学部英文科中退。雑誌編集者を経て、『驟雨』で芥川賞、『暗室』で谷崎潤一郎賞、『夕暮まで』で野間文芸賞を受賞。性を主題にした小説のほか、対談やエッセイの名手としても知られた。

アンダスン Sherwood Anderson 1876-1941
アメリカの作家。オハイオ州生まれ。シカゴの文学運動に加わり、1919年発表の『ワインズバーグ・オハイオ』で一名を成す。ヘミングウェイ、フォークナー、スタインベックなど、後の作家に大きな影響を与えた。

編集者より

『夜の樹』の作者トルーマン・カポーティは、日本でもアメリカでも人気の高い作家のひとりですが、ある時期からは作品以上に作家本人が注目を集めるようなタレント性を発揮したという点では、三島由紀夫とよく似ているような気がします。タレント性といえば、この二人の大作家にはもうひとつ、俳優として映画に出ているという共通点もあります。三島は『からっ風野郎』というヤクザ映画、カポーティのほうは『名探偵登場』というミステリー・コメディで、どちらも原作や脚本に関わっているわけではなく、純粋に俳優としての出演。カポーティは、世界の名探偵たちを自宅に集めて挑戦状を叩きつける富豪の役をいかにも楽しそうに演じています。『名探偵登場』はパロディ映画の傑作ですので、興味のある方はぜひご覧になって下さい。もちろん、彼の小説を映画化した『ティファニーで朝食を』や『冷血』、彼本人をモデルにした『カポーティ』もおすすめです。(A)