ポプラ社 百年文庫

名短篇の本棚です

全巻ラインナップ

村
83
村

黒島伝治『電報』『豚群』
葛西善蔵『馬糞石』
杉浦明平『泥芝居』


Illustration(c)Sumako Yasui

気をつけろ!
悪い奴ほど生き延びる

働きづめの50年、「貧乏たれ」の人生を倅に味わわせるのは忍びない、と息子の中学受験を決意した源作。だが聞きつけた連中は分不相応だと一斉に悪口を言いはじめ…。村の因習に翻弄される切ない親心(黒島伝治『電報』ほか一篇)。死んだ馬の腹から出た石はどうやら貴重なお宝らしい。噂を聞いた三造は取り戻そうと躍起になって…(葛西善蔵『馬糞石』)。土地ころがしに票集め、詐欺まがいの裁判沙汰。巧妙にして鮮やかな次郎さの悪人ぶりと、農村の退廃を描く杉浦明平『泥芝居』。欲望、噂、猜疑心。濃密な人間関係が浮き彫りになる三篇。

著者紹介

黒島伝治  くろしま・でんじ 1898-1943
香川県小豆島生まれ。早稲田大学入学後、シベリアに出兵。帰還後はプロレタリア文学運動に参加、農民小説や反戦小説で作家の地位を確立した。代表作に『豚群』『渦巻ける烏の群』『武装せる市街』など。

葛西善蔵 かさい・ぜんぞう 1887-1928
青森県生まれ。いくつもの職を転々とした後、徳田秋声に師事。1918年の『子をつれて』で注目を浴びる。貧窮と病苦にさいなまれながら、破滅型の自虐的な私小説を執筆した。代表作に『哀しき父』『おせい』『酔狂者の独白』など。

杉浦明平 すぎうら・みんぺい 1913-2001
愛知県生まれ。10代で「アララギ」に入会。戦後は郷里の渥美半島に居を定めて、『ノリソダ騒動記』などの記録文学を執筆。ルネッサンス研究の分野でも活躍した。代表作に『赤い水』『小説渡辺崋山』ほか。

編集者より

版画家・安井寿磨子さんによる、ユニークな表紙の馬たちは、葛西善蔵『馬糞石』のイメージを作品にしてくださったもの。お話は、飼っていた馬が死に、その腹から出てきた石が巻き起こす村の騒動記ですが、噂話が過剰にふくらんでいく感じ、石の価値がわかって取り戻そうと必死になる持ち主の強欲ぶりと周囲の狼狽などがとても他人事とは思えず、ひと目ぼれした作品でした。集団のあやうさ、その中で生き抜く個のたくましさ、悲しさが、時代と共に鮮明に描かれた三篇、おすすめです。(S)