「海は僕たち二人の場所だ。」――美しい娘ラウレラの心を開いたのは若き船乗りだった。色彩豊かな南イタリアの港町を舞台に描かれた、清らかな恋の物語(ハイゼ『片意地娘』)。ドイツの山深い古城では、まさに今、盛大な婚礼の準備が進められていた――。予期せぬ花婿の死から始まる、W・アーヴィングの異色作『幽霊花婿』。資産家の夫との人生を投げ打ち、若き曲馬師を選んだレオノール。恋の激情に身を任せた娘の逃避行(スタンダール『ほれぐすり』)。心の赴くまま、奔放に。十代の娘たちのかけがえのない季節を描いた三篇。
ハイゼ Paul Heyse 1830-1914
ドイツの作家。20代で遊学したイタリアから影響を受け、イタリアを舞台にした作品で高い評価を得た。短篇小説の巨匠と呼ばれ、ドイツ作家として初のノーベル文学賞を受賞。代表作に『片意地娘』『トレヴィゾーの刺繍女』など。
W・アーヴィング Washington Irving 1783-1859
アメリカの作家。法律を学んだ後、ヨーロッパ旅行で見聞を広め、短篇集『スケッチ・ブック』で作家の地位を確立。スペイン駐在アメリカ公使も務めた。
ほかに『ブレイスブリッジ邸』『アルハンブラ物語』『ジョージ・ワシントン伝』など。
スタンダール Stendhal 1783-1842
フランスの作家。本名マリ=アンリ・ベール。軍人や官吏としてヨーロッパ各地を転々としながら、多くの女性と恋愛を繰り広げ、小説や戯曲などの執筆活動をおこなう。とりわけ長篇小説でその本領を発揮した。代表作に『赤と黒』『パルムの僧院』ほか。
「十代の娘の初恋」が、三篇の共通項です。どうしたらよいかわからず、得たいの知れない感情を持て余し、時には痛い目も見てしまう……。誰にでも少なからず覚えがあるはずです。奔放で、あぶなっかしくて、でも愛おしい。青春の季節にだけ許される娘たちの姿を、ご堪能ください。(Y)