ポプラ社 百年文庫

名短篇の本棚です

全巻ラインナップ

嘘
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嘘

宮沢賢治『革トランク』『ガドルフの百合』
与謝野晶子『嘘』『狐の子供』
エロシェンコ『ある孤独な魂』ほか


Illustration(c)Sumako Yasui

心からこぼれ落ちる
その言葉は本物ですか

村の落ちこぼれ少年・斉藤平太は、父の威信で職に就いたものの、間抜けな失敗ばかり。皆の嘲笑に嫌気がさして心機一転上京するが…(宮沢賢治『革トランク』)。級友の作り話遊びに退屈した「私」は、「今迄隠して居ましたけれど」と自らの秘密を語りはじめた(与謝野晶子『嘘』)。「わたしたちは色が白いから、いちばん文明が進んでいるのですか?」――盲目の少年の問いに、大人たちは狼狽する(エロシェンコ『ある孤独な魂』)。曇りなき心で綴られた名篇が、鏡となって虚構を映し出す。

著者紹介

宮沢賢治 みやざわ・けんじ 1896-1933
岩手県花巻市に生まれる。盛岡農林高校在学中から詩や散文を書き、教諭を経て農業を主とした生活に入る。最愛の妹の死を『永訣の朝』に、病に倒れて『雨ニモマケズ』を著した。代表作に詩集『春と修羅』、『注文の多い料理店』『銀河鉄道の夜』『よだかの星』ほか。

与謝野晶子 よさの・あきこ 1878-1942
大阪府堺市生まれ。本名・しよう。与謝野鉄幹との出会いから「明星」に短歌を発表するようになり、初の歌集『みだれ髪』で一躍注目を集める。反戦詩『君死に給ふことなかれ』を発表するなど、社会問題に対して文壇から一石を投じた。

エロシェンコ Vasilii Eroshenko 1890-1952
ロシアの詩人・童話作家。4歳で失明し、モスクワやロンドンの盲学校で学び、『提灯の話』でデビュー。1914年からは東京に在住し、『夜明け前の歌』『人類のために』などを執筆した。 後に中国に渡り、魯迅や周作人と親交を持った。エスペラント(国際語)普及にも尽力した。

編集者より

嘘と真実の境界は、いったいどこにあるのか? 人間の心や社会のなかに生まれる様々な「嘘」が、素朴なストーリーの中に鋭く描かれています。一語一語に真実を結実させ、自らに問い続けた3人の作家たち――その澄み切った言葉の力に圧倒されます。与謝野晶子の『嘘』『狐の子供』とエロシェンコの『ある孤独な魂』は、それぞれ幼少期の体験を自伝的に描いた作品(一冊で8篇の作品を収録しています)。『嘘』という意味深な言葉に思いを託して、誰かにプレゼントしてみるのもなかなか面白いかもしれませんね。(R)