ポプラ社 百年文庫

名短篇の本棚です

全巻ラインナップ

肌
60
肌

丹羽文雄『交叉点』
舟橋聖一『ツンバ売りのお鈴』
古山高麗雄『金色の鼻』


Illustration(c)Sumako Yasui

ほどけてなお求め合う、
男と女の、愛と性。

「落ちるところまで落ちた」――そんな思いで住みついたアパートみどり荘で、川上は隣室の若い女にふとした好奇心を抱く。憐れみから惰性へと関係を深めてしまう男女のあやうさ(丹羽文雄『交叉点』)。執筆のためカンヅメにされた旅館で、あれやこれやと「私」を世話する仲居の鈴音にはもう一つの顔があった(舟橋聖一『ツンバ売りのお鈴』)。零細映写機会社の支社長と事務員。恋して暮らして二十年、別れを迎えてなお高まる愛しさ(古山高麗雄『金色の鼻』)。ときに不可解な男女の性愛を描いた三篇。

著者紹介

丹羽文雄 にわ・ふみお 1904-2005
三重県の浄土真宗の寺の長男として生まれる。早稲田大学卒業後、いちどは僧職に就くも『鮎』の好評を機に上京し、作家活動に入る。代表作として『蛇と鳩』(野間文芸賞)、『顔』(毎日芸術賞)、『一路』(読売文学賞)など。

舟橋聖一 ふなはし・せいいち 1904-1976
東京・本所生まれ。東京帝大在学中に劇団を旗揚げし、戯曲『白い腕』で文壇デビュー。終戦後は『雪夫人絵図』などの風俗小説で人気を得た。代表作に『悉皆屋康吉』『花の生涯』、『好きな女の胸飾り』(野間文芸賞)など。日本文藝家協会の初代理事長としても活躍した。

古山高麗雄 ふるやま・こまお 1920-2002
朝鮮・新義州生まれ。1942年召集され、南方を転戦しラオスで終戦。復員後は出版社勤務を経て、「季刊藝術」同人に。戦犯容疑で収容された刑務所体験を描いた『プレオー8の夜明け』で芥川賞を受賞した。ほかに『セミの追憶』『フーコン戦記』がある。

編集者より

触れればたしかに温かい、でもそのぬくもりはいつか冷める……。この巻は、タイトルどおり、一筋縄ではいかない男女の関係さまざま、の三篇です。丹羽文雄の『交叉点』は騙されてしまう女の物悲しさ、舟橋聖一『ツンバ売りのお鈴』は騙し、裏切るしかなかった女の物悲しさが、そして古山高麗雄の『金色の鼻』では長年連れ添った、しかし去ることを決意した妻の姿がじんわり苦く描かれます。それぞれ作家の人生と重ねて読んでも味わい深い作品、どうぞお楽しみください。(S)