ポプラ社 百年文庫

名短篇の本棚です

全巻ラインナップ

顔
58
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ディケンズ『追いつめられて』
ボードレール『気前のよい賭け事師』
メリメ『イールのヴィーナス』


Illustration(c)Sumako Yasui

仮面の下にうごめく
恐るべき魔性の世界

なぜ私はだまされたのか? 彼の顔を読み違えたのか? 生命保険会社で長年、訪れる客を審査してきた「私」が遭遇した意外な復讐劇(ディケンズ『追いつめられて』)。パリの雑踏で出会った「善良な悪魔」に魂を売り渡した男が、地下の豪奢な屋敷で繰り広げる不思議な対話(ボードレール『気前のよい賭け事師』)。イールの街で掘り出された青銅のヴィーナスに魅入られた男たちの異教的な恐怖体験を描いたメリメの『イールのヴィーナス』。欺かれる快感をどうぞ。

著者紹介

ディケンズ Charles Dickens 1812-1870
イギリスの作家。貧しい少年時代を送り、12歳から働き始める。鋭い観察眼を生かした短篇で人気を博して以降、つねに人気作家の地位を保ち続けた。代表作に『オリヴァー・ツイスト』『デイヴィッド・コパーフィールド』『二都物語』『大いなる遺産』など。

ボードレール Charles Baudelaire 1821-1867
フランスの詩人・美術評論家。パリ生まれ。美術評論家としてデビューし、1857年に詩集『悪の華』を発表。後の象徴主義に影響を与え、フランス近代詩の源流となった。他に散文詩集『パリの憂鬱』など。

メリメ Prosper Merimee 1803-1870
フランスの作家・考古学者。パリ生まれ。優れた短篇作家として活躍したほか、官吏として古い遺跡や建造物の保護・修復に努める。第二帝政時代には上院議員を務めた。代表作に『マテオ・ファルコーネ』『エトルリアの壺』『イールのヴィーナス』『カルメン』など。

編集者より

ミステリアスで少々オカルトティックな作品を収録した本巻。『追いつめられて』は、『デイヴィット・コパーフィールド』や『オリバー・トゥイスト』で知られる、イギリスの文豪ディケンズの心理ミステリです。少々難解ではありますが、人間の暗部を描いた読み応え充分の作品で、エラリー・クイーンにも絶賛されました。『気前の良い賭け事師』は、詩集『悪の華』で知られるボードレールの短篇です。「善良な悪魔」と男の不思議な対話をお楽しみ下さい。『イールのヴィーナス』は戯曲『カルメン』で知られるメリメの、遺跡調査員としての知識、経験が盛り込まれた幻想的な短篇。古代ローマの民話をベースにした本作からは、当時の宗教観も伝わってきます。怪談話や幻想譚が好きな方におすすめです。(Y)