ポプラ社 百年文庫

名短篇の本棚です

全巻ラインナップ

群
47
群

オーウェル『象を射つ』
武田麟太郎『日本三文オペラ』
モーム『マッキントッシュ』


Illustration(c)Sumako Yasui

民衆という名の
もうひとりの主人公がいる

「市場で象が暴れています」と連絡を受けた警察官が護身用のライフルを手にすると…。群衆に取りかこまれた男の痛切な経験(オーウェル『象を射つ』)。隣接した墓地に向かって傾いている三階建てのアパート。ユニークな住人たちの暮らしを描いた武田麟太郎の『日本三文オペラ』。南の島に君臨する行政官と助手はことあるごとに対立していた。屈辱を感じつづけた助手は大胆な行動を決意するが…(モーム『マッキントッシュ』)。民衆の力がすべてを飲みこんでいく物語。 

著者紹介

ジョージ・オーウェル George Orwell 1903-1950
イギリスの批評家、小説家。植民地時代のインドに生まれる。インド帝国警察を退官後、執筆活動を開始。労働階級の生活を描いた『パリ・ロンドンどん底生活』で注目を集める。代表作に『動物農場』『一九八四年』など。

武田麟太郎 たけだ・りんたろう 1904―1946
大阪市生まれ。東京帝大入学後、1929年に「文藝春秋」に『暴力』を発表し、プロレタリア作家としての地位を確立。32年発表の『日本三文オペラ』以降は、庶民の視点から風俗を描いた作品を発表する。代表作に『銀座八丁』『下界の眺め』『井原西鶴』など。

モーム W. Somerset Maugham 1874―1965
イギリスの小説家、劇作家。貧民街で医療に従事した体験をもとに『ランベスのライザ』を発表し、作家デビュー。1919年『月と六ペンス』がベストセラーになる。旅をしながら執筆するが、58年に作家活動から引退。他の作品に『人間の絆』『劇場』など。

編集者より

民衆心理の奇妙さを感じる、ある種ホラーのような三篇。一人一人の個人としての人間ではなく、それが塊となったとき、倫理観が覆ってしまう様には震えました。武田麟太郎の『日本三文オペラ』は、家と家が密接していて近所づきあいの濃い、日本ならではの物語。噂話が飛び交う集合住宅でのやりとりは、目に浮かぶようにリアルで滑稽で、だけど、温かく感じられます。(Y)