ポプラ社 百年文庫

名短篇の本棚です

全巻ラインナップ

家
43
家

フィリップ『帰宅』ほか
坪田譲治『甚七南画風景』
シュティフター『みかげ石』


Illustration(c)Sumako Yasui

おじいさんの家
土地にしみこんだ物語

酒飲みの父親が四年ぶりに家に帰ってきた…(『帰宅』)。つましい庶民の暮らしを一幅の名画のように切り取って見せるフィリップの小さな話六篇。甚七老人は縁側で煙草を吹かしながら、ふと墓参りを思い立つ。不思議な明るさに満ちた晩年の故郷の光景(坪田譲治『甚七南画風景』)。ペストが猛威を振るい村人たちが次々と世を去ったとき、森の中で生き抜いた子どもがいた――。祖父が教えてくれた忘れられない話(シュティフター『みかげ石』)。家や土地に刻まれた人の暮らしの物語。

著者紹介

フィリップ Charles-Louis Philippe 1874-1909
フランスの小説家。小さな町で木靴職人の子として生まれ、市役所勤めをしながら小説を執筆。『母と子』『小さな町で』など、つつましい庶民の暮らしを、感受性豊かな筆致で描いた作品を残している。

坪田譲治 つぼた・じょうじ 1890-1982
岡山県生まれ。小川未明、鈴木三重吉に師事。製織所の家業と並行して執筆を続け、46歳で発表した『風の中の子供』で、児童文学者としての地位を確立した。代表作に『お化けの世界』『子供の四季』など。

シュティフター Adalbert Stifter 1805-1868
オーストリアの作家。ウィーン大学に進学し、画家を志望するが、発表した短篇『コンドル』が好評で文筆活動に入る。人間を取り巻く自然の姿を、美しく描写した作品で知られる。代表作に『石さまざま』『晩夏』など。

編集者より

日当たりのよい家の外に椅子を出し、大好きなおじいさんから伝え聞いたお話……。「家」はそんなささやかな暮らしと、土地に生きる愛すべき人びとの姿が淡々と描かれた作品群です。大げさでなく、嘘もない、真面目さゆえのユーモアもあって、それらがイメージ豊かに広がります。「家」というタイトルではありますが、これを読むと、不思議と旅をしたくなります。どこかでこんな愛おしい暮らしに会えるのではないかという気がするのです。(S)