女友達に高価な贈り物をし、湯水のように金を使う貴族ルドルフ。借金を重ねて落ちぶれても貴族のプライドは老いてなお高く――(ポルガー『すみれの君』)。「人生で最初の別れ話」を切り出す少年の高揚感をユーモラスに描いた三島由紀夫の『雨のなかの噴水』。料理人や世話係を連れ狩猟のテントを張るマカンバーは、妻に勇姿をみせようとライオン狩りにむかうが…(ヘミングウェイ『フランシス・マカンバーの短い幸福な生涯』)。夢に舞った人たちの、おかしくてちょっぴり苦い物語。
ポルガー Alfred Polgar 1873-1955
オーストリアの作家、ジャーナリスト。世紀末のウィーンでカフェに集い、多くの文学者や芸術家と交流しながら、新聞記者、演劇評論家として活躍。ユーモアに富んだ文章を数多く残した。代表作に劇評集『私が証人』『黒と白』など。
三島由紀夫 みしま・ゆきお 1925-1970
東京・四谷生まれ。本名は平岡公威。1946年、川端康成の推薦で文壇にデビューし、49年の『仮面の告白』で作家の地位を確立。『金閣寺』『豊饒の海』など多彩な作品を残し、海外でも高く評価された。70年に自衛隊の市ヶ谷駐屯地で割腹自殺。
ヘミングウェイ Ernest Hemingway 1899-1961
アメリカの小説家、詩人。新聞記者として滞在したパリで小説を書き始め、従軍や狩猟旅行など実体験をもとにした作品で作家として不動の地位を確立した。1954年にノーベル文学賞を受賞。代表作に『老人と海』『武器よさらば』など。
夢を追いかけて右往左往する、一途な人たちを描いた作品を収録しています。ポルガーは日本ではあまり知られていませんが、19世紀末のウィーンで活躍したジャーナリストです。シュニッツラーやホーフマンスタールと同様、お気に入りのカフェに集って文化人たちと交流しながら創作活動をおこなった「若きウィーン派」の流れをくむ作家でしたが、後にナチスの迫害から逃れるためアメリカに亡命しています。『すみれの君』は、そうした当時のウィーン文化の背景を感じとることができます。三島由紀夫の『雨のなかの噴水』は、若い男子のほほえましい「夢」をとらえたささやかな作品ですが、『フランシス・マカンバーの短い幸福な生涯』は、ヘミングウェイが奥さんとのアフリカへの旅をもとにした作品で、「夢」の終末を示唆しています。(R)