ポプラ社 百年文庫

名短篇の本棚です

全巻ラインナップ

黒
32
黒

ホーソーン『牧師の黒のベール』
夢野久作『けむりを吐かぬ煙突』
サド『ファクスランジュ』


Illustration(c)Sumako Yasui

突然、悪夢のような…
暗がりに放たれた情熱

司祭フーパーはある日、黒ベールで顔を覆って説教壇に立った。村は騒然となり非難と噂が飛びかうが、司祭はどんな時もベールを外そうとしない(ホーソーン『牧師の黒のベール』)。醜聞で私服を肥やす強請り屋の新聞記者が、妖気漂う未亡人の館でみたのは…(夢野久作『けむりを吐かぬ煙突』)。ファクスランジュ嬢は恋人を捨て莫大な資産を持つという「男爵」と結婚するが、連れて行かれたのは山峡の匪賊の根城だった(サド『ファクスランジュ』)。闇に放たれる罪と欲望のゆくえ。

著者紹介

ホーソーン Nathaniel Hawthorne 1804-1864
アメリカの作家。マサチューセッツ生まれ。ピューリタンの古い家柄の出身で、先祖には魔女裁判の判事を務めた者もいた。人間存在の罪をテーマにした作品が多く、優れた短篇作家としてもよく知られている。代表作に『緋文字』『七破風の家』など。

夢野久作 ゆめの・きゅうさく 1889-1936
福岡県生まれ。新聞記者として、関東大震災などの取材で活躍した後、1926年に雑誌「新青年」で作家デビュー。江戸川乱歩にも高く評価された。『押絵の奇蹟』『ドグラ・マグラ』など、怪奇性と幻想性の強い作品は根強い人気がある。

サド Marquis de Sade 1740-1814
フランスの作家。その名が「サディズム」の語源になっている。不品行で何度も投獄され、獄中で多くの小説を執筆。作品は長らく禁書扱いされていたが、現在では高く評価されている。代表作に『悪徳の栄え』『恋の罪』など。

編集者より

本巻に収録されているのはホーソーン、夢野久作、サドの3作家。「ポプラ社の本にサドの作品が!」と驚かれる人もいるかもしれません。確かにサドは、生前はスキャンダルの連続で幾度も投獄された作家です。そして代表作である『悪徳の栄え』が翻訳されて日本に紹介されるや、わいせつ文書に当たるとして訳者の澁澤龍彦が起訴され、最高裁まで争った末に有罪判決を受けました。しかし、そのような先入観にとらわれて食わず嫌いになり、読まずにいるには惜しい作家。なにはともあれ、まずはこの『ファクスランジュ』から読んでみてください。なお、当百年文庫には、同じくわいせつか否かが裁判で問われた『チャタレイ夫人の恋人』の作者D・H・ロレンスや、『四畳半襖の下張』の作者(といわれている)永井荷風の作品を収録した巻も取り揃えてございます。(A)