ポプラ社 百年文庫

名短篇の本棚です

全巻ラインナップ

畳
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畳

林芙美子『馬乃文章』
獅子文六『ある結婚式』
山川方夫『軍国歌謡集』


Illustration(c)Sumako Yasui

ちいさな部屋で出会い、
そして夢をみる

空腹の家族が待っていても原稿料が入るとつい酒を飲んでしまう――。貧乏作家の夢と現実を明るく描いた林芙美子の『馬乃文章』。媒酌人を頼まれた「私」は自宅の日本間で小さな結婚式をとりしきる。若い人たちの決意を爽やかに描いた獅子文六の『ある結婚式』。映画のエキストラをしている友人宅での共同生活、アパート前の通りから毎晩のように若い女の歌声が聞こえてきて…。青春の夢と哀愁がただよう山川方夫の『軍国歌謡集』。小さな部屋に刻まれた忘れえぬ思い出。

著者紹介

林芙美子 はやし・ふみこ 1903-1951
福岡県門司市生まれ。尾道の高等女学校を卒業後、恋人を追って上京。詩や小説の執筆を始め、1930年刊行の『放浪記』で人気作家に。報道記者としても海外へ積極的に出かけ、戦後も精力的に執筆するが、51年に急逝。他の作品に『稲妻』『浮雲』『晩菊』など。

獅子文六 しし・ぶんろく 1893-1969
横浜市生まれ。本名岩田豊雄。大学中退後、パリを中心にヨーロッパを外遊。帰国後は演劇人として活躍するが、風刺精神とユーモアあふれる文章で国民からの圧倒的な人気を集める。代表作に『てんやわんや』『娘と私』など。

山川方夫 やまかわ・まさお 1930-1965
東京・下谷生まれ。本名嘉巳(よしみ)。慶應義塾大・大学院在学中に編集者として「三田文学」黄金期を築く。『演技の果て』『その一年』などで芥川賞候補に4回、『クリスマスの贈物』で直木賞候補に。1965年、交通事故で死去。

編集者より

作品の読み込みをしていたとき、神保町の古書店にあった獅子文六の単行本『南の男』に出会い、そこから選んだ作品です。シンプルだけれども、風合いのある表紙と独特の題字に惹かれ、中を見ると「装幀」として芹沢銈介氏の名前がありました。そして、染色家として知られる芹沢氏が、岡本かの子、川端康成、山本周五郎など著名な作家の装幀を数多く手がけていることをそのとき知りました。「畳」という一風変わったタイトル、でもしみじみとした懐かしさ、人が素足になって過ごす時間を感じていただける作品です。(S)