ポプラ社 百年文庫

名短篇の本棚です

全巻ラインナップ

湖
29
湖

フィッツジェラルド『冬の夢』
木々高太郎『新月』
小沼丹『白孔雀のいるホテル』


Illustration(c)Sumako Yasui

夜の湖にきらめく影
忘れえぬ愛と夢の日々

「あたし、どうかしちゃったみたい。ゆうべはべつの男のひとに夢中だったのに、今夜はあなたに夢中みたいなんだもの――」。奔放な美しい娘と恋に落ちた男の去り行く日々の陰影(フィッツジェラルド『冬の夢』)。湖の死亡事故にかかわった弁護士が報告する忘れえぬ人物の話(木々高太郎『新月』)。いつか美しいホテルを建てることを夢見る安宿の主人とアルバイト学生のユーモラスな日々(小沼丹『白孔雀のいるホテル』)。湖を舞台に夢が舞う、ほろ苦い三篇。

著者紹介

フィッツジェラルド F.Scott Fitzgerald 1896-1940
アメリカの小説家。第一次大戦時に大学を退学して任官。終戦後、『楽園のこちら側』でデビューすると、若い世代に支持されて一躍人気作家になった。他に『グレート・ギャツビー』『バビロン再訪』などがあり、アメリカが繁栄を謳歌した1920年代を象徴する作家。

木々高太郎 きぎ・たかたろう 1897-1969
山梨県生まれ。本名は林髞(はやしたかし)。大脳生理学者の傍ら探偵小説作家としてデビューし、1937年に直木賞受賞。「探偵小説芸術論」を提唱して、甲賀三郎や江戸川乱歩と論戦を繰り広げた。代表作に『人生の阿呆』『わが女学生時代の罪』など。

小沼丹 おぬま・たん 1918-1996
東京・下谷生まれ。本名は救(はじめ)。高校時代から小説を書き始め、井伏鱒二に師事。早稲田大学で教鞭をとりながら、身辺に題材を取った短篇を多く発表。ユーモアとペーソスのある作風で知られた。代表作に『懐中時計』『椋鳥日記』など。

編集者より

いいなあ、何度読んでもいいなあと、好きな場面がいくつもある。ロマンスあり、ユーモアあり、殺人事件あり。どの作品も湖がでてくるが、夜の湖はやっぱり妖しい。人を誘う星明り、夜風にのって聴こえてくる人の声。日常から少し離れた場所にくりひろげられるドラマは、どれも憧れと夢を漂わせながら、思うように進んではくれない。でも、夢をみられるって素敵だ。本を閉じ、なんだか懐かしい気持ちになる。(N)