ポプラ社 百年文庫

名短篇の本棚です

全巻ラインナップ

川
24
川

織田作之助『螢』
日影丈吉『吉備津の釜』
室生犀星『津の国人』


Illustration(c)Sumako Yasui

日本人の暮らしに
川があった頃の物語

酒の名所、伏見の船宿に嫁いだのは登勢が十八の頃だった。頼りない夫と気難しい姑、打ち続く災厄にもへこたれずに生きぬく女性の輝き(織田作之助『螢』)。水上バスに乗って川岸の景色を眺めるうち、記憶の底から呼び出された「魔物」の正体(日影丈吉『吉備津の釜』)。都での宮仕えが決まった夫は津の川を東へ、妻は西へと別れた。ふたたび一緒に暮らせる日を願って妻は便りを待ち続けるが…(室生犀星『津の国人』)。暮らしに川が生きていた頃の、日本人の心の風景。

著者紹介

織田作之助 おだ・さくのすけ 1913-1947
大阪府生まれ。旧制第三高等学校時代より文学を志し、1940年、『夫婦善哉』で新進作家としての地位を獲得。坂口安吾、太宰治らとともに「無頼派」と呼ばれ、『わが町』『世相』『競馬』などを発表。人気作家として活躍したが33歳で死去。

日影丈吉 ひかげ・じょうきち 1908-1991
東京・深川生まれ。本名は片岡十一。アテネ・フランセでフランス語を学んだ後、フランス料理の指導をしていたが、戦後『かむなぎうた』が懸賞小説に入選して探偵小説作家に。翻訳家としても活躍した。代表作に『吉備津の釜』『狐の鶏』『泥汽車』など。

室生犀星 むろお・さいせい 1889‐1962
石川・金沢生まれ。本名は照道。金沢地方裁判所に給仕として就職後、俳句や詩をつくり始め、20歳で詩人を志す。北原白秋主宰の「朱欒(ザンボア)」に発表した詩で注目され、その後小説家としても認められた。主な作品に『あにいもうと』『杏っ子』など。

編集者より

『伊勢物語』を題材にした室生犀星の『津の国人』を読み、ああ、どの時代になっても人が人を思う気持ちは変わらないんだなあ、と感じ入りました。それぞれの短篇は、時代背景は違いますが、一筋縄ではいかない、川のある場所で暮らす人々の「気持ちの交錯」が描かれています。(Y)