ポプラ社 百年文庫

名短篇の本棚です

全巻ラインナップ

鍵
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鍵

H・G・ウェルズ『塀についたドア』
シュニッツラー『わかれ』
ホーフマンスタール『第六七二夜の物語』


Illustration(c)Sumako Yasui

ここではないどこかへ
秘められた願いの行方

いまや高名な政治家となった学友ウォーレス。だが、彼の心はこの世ならぬものに奪われていた。少年の日の奇妙な記憶が人生をのみこんでいくH・G・ウェルズの『塀についたドア』。不安と陶酔に縁どられた禁断の恋、痛切なラストが胸に迫るシュニッツラーの『わかれ』。世間から孤絶して暮らす裕福な美青年が独自の感覚世界に没入していく『第六七二夜の物語』(ホーフマンスタール)。現実の壁を跨ぎ越えようと、遥かな願望へ向かった人間たちの悲しくも夢幻的な物語。

著者紹介

H・G・ウェルズ H.G.Wells 1866-1946
イギリスの小説家、文明批評家。ロンドンの理科師範学校に学び、理科教師、ジャーナリストを経験。科学知識に基づいた『タイム・マシン』をはじめ、『モロー博士の島』『透明人間』『宇宙戦争』など古典的SFの傑作を残した。

シュニッツラー Arthur Schnitzler 1862-1931
オーストリアの小説家、劇作家。ウィーンの裕福なユダヤ系医師の家に生まれ、医師から文学に転向。世紀末のウィーンを舞台に、『輪舞』『夢小説』『恋愛三昧』など退廃的雰囲の漂う作品を書いた。

ホーフマンスタール Hugo von Hofmannsthal 1874-1929
オーストリアの詩人、作家、劇作家。早熟の天才で、16歳で文学界に登場。シュニッツラーとともに世紀末ウィーン文壇の中心的存在となり、リヒャルト・シュトラウスと共作したオペラ『ばらの騎士』でも知られる。代表作に『チャンドス卿の手紙』など。

編集者より

『塀についたドア』はH・G・ウェルズの代表的な短篇だけに、これまでにさまざまな翻訳者が手がけ、多くの出版社からいろいろなタイトルで本が出ています。百年文庫に収録したのは、定番中の定番ともいえる阿部知二による訳。阿部は小説家・評論家としても著名でしたが、膨大な量の翻訳を残したことでもよく知られています。少年少女向けの小説も数多く手がけていて、著名な作家にそのような作品の翻訳を依頼したところが、当時の出版社の見識といえるのかもしれません。著名な作家の翻訳といえば、本巻収録のシュニッツラー『わかれ』の訳者は山本有三です。当百年文庫では山本有三の小説も読むことができますので、そちらもお忘れなく。(A)