老いた鷹匠の最後の仕事は若鷹「吹雪」を育てあげることだった。厳しい訓練によって鍛えぬかれた生命の力感(戸川幸夫『爪王』)。極寒の地で圧倒的な自然の力に屈していく男の姿を描いたジャック・ロンドンの『焚火』。若さにまかせ気のむくままに旅する男女が訪れた岩山には、「誓いを立てた人」と呼ばれる異様な人物がいた――。浮かれた若者の心に刻印された峻厳なる人生の掟(バルザック『海辺の悲劇』)。自然とは何か、人間とは何か――厳かな問いが物語をつらぬく。
戸川幸夫 とがわ・ゆきお 1912-2004
佐賀県生まれ。1937年に東京日日新聞に入社、記者生活の傍ら創作を始め、初の小説『高安犬物語』で直木賞を受賞。以降、動物文学の第一人者として活躍した。他に『牙王物語』『ひかり北地に』など。
ジャック・ロンドン Jack London 1876-1916
アメリカの小説家。貧困生活の中、各地を放浪し、1903年に発表した『荒野の呼び声』で人気作家の地位を確立。海洋冒険小説やSFなど、多彩な作品を執筆した。代表作に『白い牙』『海の狼』『鉄の踵』など。
バルザック Honore de Balzac 1799-1850
19世紀フランス文学を代表する作家。旺盛な創作力で伝説的な多作ぶりを発揮、『絶対の探求』『ゴリオ爺さん』『谷間の百合』など名作の数々を執筆した。バルザックが生み出した登場人物は2000人余、作品数は約100篇にのぼるといわれている。
自然と人が対峙する、いずれもインパクトの強い作品三篇が集められました。『爪王』の鷹匠、キャンプをめざし、雪原を単独移動する『焚き火』の男、『海辺の風景』の物言わぬ老いた男……。読みながら、読み終えて背筋が寒くなるような、強烈な「生き様」を感じさせる作品です。(S)