ポプラ社 百年文庫

名短篇の本棚です

全巻ラインナップ

里
19
里

小山清『朴歯の下駄』
藤原審爾『罪な女』
広津柳浪『今戸心中』


Illustration(c)Sumako Yasui

わかっていても
惚れてしまったのです

「僕は、あの、小説家になりたいと思っているんだ」――新聞配達をしながら廓に通う「私」は、遊女になって間もない純朴な娘と親しくなり、想いを伝えようとするが…(小山清『朴歯の下駄』)。刑務所に夫のある妓が客のひとりに惚れてしまう…雪景色が涙をさそう藤原審爾の『罪な女』。惚れた男との最後の宴、悲嘆にくれる花魁・吉里に、どうしてもいま会いたいと待ち続ける客が――。すれ違う男女が哀しみを織りなす広津柳浪の『今戸心中』。遊里を舞台にした切ない恋の物語。

著者紹介

小山清 こやま・きよし 1911-1965
東京・浅草生まれ。職を転々としながら太宰治に師事、太宰の死後、注目されるようになる。1951年から3年連続芥川賞候補になるが、失語症や夫人の自殺など非運が続いた。代表作に『小さな町』『日々の麺麭』など。

藤原審爾 ふじわら・しんじ 1921-1984
東京・本郷生まれ。戦後発表した『秋津温泉』で注目され、1952年『罪な女』ほかで直木賞を受賞。純文学から各種娯楽小説にいたるまで、さまざまなジャンルで活躍した。代表作に『新宿警察』『赤い殺意』など。

広津柳浪 ひろつ・りゅうろう 1861-1928
肥前・長崎生まれ。本名は直人。26歳で『女子参政蜃中楼』を発表し、文筆の道に入る。尾崎紅葉と知り合って硯友社に参加。社会の底辺に目を向けたその作品は、深刻小説とも悲惨小説とも呼ばれた。代表作に『黒蜥蜴』『今戸心中』『雨』など。

編集者より

三篇とも遊郭が舞台になっています。主人公の遊女たちの、本心を押し通し恋心に耐え忍ぶ姿には、胸が締め付けられるとともに、愛おしい気持ちが湧いてきます。特に、『罪な女』のお愛と大町のやりとりは、一つ一つの場面をここに羅列したいほど。女性の人生が凝縮された、濃厚な一冊です。(Y)