ポプラ社 百年文庫

名短篇の本棚です

全巻ラインナップ

異
17
異

江戸川乱歩『人でなしの恋』
ビアス『人間と蛇』
ポー『ウィリアム・ウィルスン』


Illustration(c)Sumako Yasui

闇にうごめくもの
そこにいるのは誰だ?

並はずれた美男子と結婚した「私」は、夫が夜ふけになると床をぬけ土蔵に行くことを怪しみはじめる。闇の中、手探りで梯子段をのぼっていくと――。隠さねばならなかったこの世ならぬ歓楽と哀しみ(江戸川乱歩『人でなしの恋』)。自信に満ちた裕福な学者が、ベッドの下に光る二つの目に神経をかき乱されてゆく(ビアス『人間と蛇』)。放蕩の限りをつくす名門一族の「私」が、同姓同名の同級生に追われる恐怖を描いたポーの『ウィリアム・ウィルスン』。背筋のさむくなる三篇。

著者紹介

江戸川乱歩 えどがわ・らんぽ 1894-1965
三重県生まれ。本名は平井太郎。ポーやコナン・ドイルで探偵小説の面白さを知り、雑誌「新青年」に作品を発表して人気作家となる。戦後は探偵作家クラブを創立、初代会長を務めた。代表作に『押絵と旅する男』『怪人二十面相』など。

ビアス Ambrose Bierce 1842-1914 ?
アメリカの小説家、ジャーナリスト。南北戦争で北軍兵士として戦った後、ジャーナリストとして人気を博す一方で、短篇小説も数多く執筆。1913年、革命さなかのメキシコで消息を絶った。代表作に『悪魔の辞典』『いのちの半ばに』など。

ポー Edgar Allan Poe 1809-1849
19世紀アメリカ文学を代表する小説家、詩人。短篇小説の名手で、推理小説の分野を確立。詩人としてはフランス象徴詩に大きな影響を与えた。アメリカ文学史上最大の文豪だが、常に貧困に苦しみ、酒におぼれて早世した。代表作に『アッシャー家の崩壊』『モルグ街の殺人』など。

編集者より

本巻に収録したのは江戸川乱歩、ビアス、ポーの作品で、ポーの『ウィリアム・ウィルスン』の訳は乱歩が手がけています。江戸川乱歩というペンネームがエドガー・アラン・ポーのもじりであることはよく知られていますが、乱歩が実際にポーの翻訳を手がけていたことを知ったのは百年文庫の編集作業に入ってから。底本にしたのは昭和3年から6年にかけて刊行された改造社版『世界大衆文学全集』の『ポー、ホフマン集』。いわゆる円本です(ただし当時の定価は1冊50銭)。当初は36巻で完結する予定だったのが、よほど好評だったのか増刊に増刊を重ねて、最終的に全80巻になりました。この全集、作家名や作品名を眺めているだけでも楽しいのですが、訳者陣も豪華そのもの。乱歩以外にも多くの作家が名を連ねていて、大佛次郎、久米正雄、菊地寛、佐々木邦、近松秋江、佐藤春夫、賀川豊彦、岡本綺堂、広津和郎、佐佐木茂索、尾崎士郎、森田草平、池谷信三郎などなど、錚々たる顔ぶれです。このうち、久米正雄、近松秋江、岡本綺堂、尾崎士郎が今後の百年文庫のラインナップに登場する予定ですので、どうかお楽しみに。(A)