ポプラ社 百年文庫

名短篇の本棚です

全巻ラインナップ

庭
15
庭

梅﨑春生『庭の眺め』
スタインベック『白いウズラ』
岡本かの子『金魚撩乱』


Illustration(c)Sumako Yasui

小さな庭
それは人生と生命の舞台

荒れ放題の「私」の庭は、鶏も犬も自由に通り、時には馬すら横切っていく。庭に出没する「隣人」たちの生態をユーモラスに描いた『庭の眺め』(梅﨑春生)。一心不乱に庭づくりに没頭する妻の心が理解できない夫の愛と苦しみ(スタインベック『白いウズラ』)。「あなたは金魚屋さんの息子さんの癖に、ほんとに金魚の値打ちを御承知ないのよ。」美しく成長した幼なじみに煽られ、絢爛豪華な金魚を生みだそうと苦心する青年の恋と夢(岡本かの子『金魚繚乱』)。小宇宙のような庭を巡る三篇。

著者紹介

梅﨑春生 うめざき・はるお 1915-1965
福岡市生まれ。東大国文科を卒業後、海軍に召集され、暗号特技兵などを務める。1946年、その体験をもとにした『桜島』を発表、一躍戦後派文学の代表的存在となる。54年の『ボロ家の春秋』で直木賞受賞。他の作品に『日の果て』『砂時計』『幻化』など。

スタインベック John Steinbeck 1902-1968
アメリカ・カリフォルニア州生まれの作家。新聞記者など職業を転々とした後、1929年に第一作『黄金の杯』を発表。『二十日鼠と人間』『怒りの葡萄』などがベストセラーに。62年にノーベル文学賞受賞。他の作品に『エデンの東』『赤い子馬』など。

岡本かの子 おかもと・かのこ 1889-1939
東京・青山生まれ。与謝野鉄幹・晶子に師事して歌人として活躍し、1936年、小説『鶴は病みき』で小説家デビュー。仏教研究に打ち込んだことでも知られている。代表作に『母子叙情』『老妓抄』『家霊』など。息子は芸術家の岡本太郎。

編集者より

家人の性格を映す庭は、まさに小宇宙。あらゆるものがそこにはある。庭を鏡と見立てると、なんとよく人間界がみえることか。梅崎春夫の『庭の眺め』は定点観測の楽しさで隣人の生態を浮き彫りにするし、スタインベックの『白いウズラ』はぞくぞくする緊張感で新婚女性の内面の秘密に迫っていく。岡本かの子の『金魚撩乱』は自然と人間の対比が鮮やかで、ラストシーンは息を呑んでしまう。いずれも恐るべき筆力、小説を読む醍醐味を堪能。(N)