ポプラ社小説新人賞

ポプラ社編集部がぜひ世に出したい、ともに歩みたいと考える作品、書き手を選びます。

第一回ポプラ社小説大賞

全体講評

第一回ポプラ社小説新人賞には、780作の応募をいただきました。
今回は新人賞に生まれ変わっての第一回ということで、選考に関わる一同、意気込みも新たに取り組みました。
一次選考では39篇を通過とし、二次選考では14作品に絞り込みました。
その後最終候補作として下記の6作品を決定しました。

最終候補作は、時代物あり近未来を舞台にした作品ありとバラエティに富み、弊社社長の坂井を選考委員長とした計10名の選考担当者が臨んだ選考会では、それぞれの作品を推す選考者がいる状態で、白熱した議論となりました。

新人賞の『美少女ロボットコンテスト』は、コンテストという設定の必然性や構成上の欠点なども指摘されたものの、ロボットの持ち主たちのエピソードを通して、人が人に求めるものが描き出されていることを高く評価する選考者が複数おり、僅差ながら他を押さえての受賞となりました。 このほか、今後書籍化を見込める作品を特別賞として1作品、また書き手としての今後が期待される作品を奨励賞とし、1作品を選出しました。 詳しくは、各作品の講評をご覧ください。

同時に第二回ポプラ社小説新人賞の募集を開始いたします。
新しい才能に出会えることを期待し、みなさまのご応募をお待ちしております。

ポプラ社小説新人賞事務局
吉田元子
2011年12月15日

最終候補作品講評

新人賞『美少女ロボットコンテスト』興津聡史

 今よりほんの少し「未来」の日本を舞台に描かれる物語。ロボットメーカーの営業ウーマン・森本桃子は、入社早々あるプロジェクトに携わることになるが、それは、極秘で開発している美少女型ロボットに関するものだった。桃子は命じられたレポート提出のため、美少女型ロボット「花子」と同居生活をはじめる――。
 ロボットとそのオーナーたちとのエピソードがオムニバス形式で描かれており、そのひとつひとつが魅力的であったこと、また「人間の形をしたロボットと生活を共にする」という設定をうまく使い、ロボットを描くことで人間関係の本質を浮き彫りにしていく様と、しっかりとした筆力が評価された。
 全体としてはやや要素を詰め込みすぎたきらいもあり、構成面に問題があるとの指摘もあったが、物語はこびやキャラクター、感情の書き方にセンスが感じられ、書き手としての可能性には十分に期待できるという意見が多数出たことから、新人賞の受賞が決まった。

特別賞『喪失 プルシアンブルーの祈り』水田静子

 出版業界で活躍し、プライベートも充実している34歳の編集者・文乃。端から見れば何もかもが順調に思える彼女だが、両 親の離婚やかつての恋人との死別をなかなか受け入れることができず、喪失感を抱えながら生きていた。そんな彼女を変えたのは、取材で知り合った老いた画家・雅子の存在。ふたりは徐々に関係を深めていくが、雅子には死期が近づいていた――。
 筆力という点でもっとも評価が高かったのはこの作品だった。安定感のある筆致でつづられる的確な描写から、じっくりと読ませる力があると評価されたが、後半の構成の問題とテーマや価値観がやや地味で古風だったことが票を分け、特別賞の受賞となった。

奨励賞『私撰阪大異聞物語』秋山浩司

 大阪大学の学生である「私」は、公私共に充実した大学生活を夢想していたものの、あてが外れ、大学と下宿をただ往復するだけの毎日を送っていた。そんなある日「私」は、運命というには少々大げさだが、奇縁とでもいうべき相手との出会いを果たす。それは飄々とした雰囲気を纏う変人で、彼もまた阪大生だった。「私」は彼が部長を務める謎のサークルに強引に入らされてしまう。「私」はそこで一体自分が何をしているのか、彼は何者で、何が目的なのか、皆目わからない状態でありながら持ち前の受動的な性格のままに彼の指令に従っていくのだった――。
 人見知りで人と関わることが苦手だった主人公が、巻き込まれる形でさまざまな事件に関わりながら他人と接する喜びと面倒臭さの両面を感じ取っていく様が描かれる。設定や物語の流れは、最近の学園を舞台としたコメディとしてよく見られるものだが、文章にとぼけた味わいがあり、テンポよく読ませるところが評価された。視点の転換など構成上の問題もあり、物語運びそのものの新鮮味には欠くという指摘もされたが、将来性が買われ、奨励賞となった。

『いなりで御免!』朴子

 江戸・神田。端唄の師匠である大村陽次郎は、剣の腕はからっきしだが、水も滴る美しい容貌に透き通る美声を持ち、しなだれかかろうとする女は星の数である。しかし、陽次郎がひそかに想いを寄せる町医者の娘・初音との仲は、恋敵である高田久吾の存在もあり、遅々として進まない。ある日、通りがかった稲荷神社の荒廃ぶりを気の毒に思った陽次郎は、軽い気持ちで社の掃除にとりかかる。すると、おりなと名乗る美しい女が陽次郎の前に現れる。おりなはお稲荷様の化身で、陽次郎のやさしさに心底惚れてしまい、姿を現したというのだ。かくして、陽次郎をめぐって稲荷の化身と数多の女性が大騒動を巻き起こしていく――。
 見栄えのする端唄の師匠と稲荷の化身が江戸の町で起こる事件を解決していくというストーリー展開の妙と、主人公の陽次郎をはじめ、稲荷の化身・おりなのキャラクター造形には読み手を惹きつける魅力がある。しかし、起きる事件ひとつひとつのクオリティには粗さが見られ、登場人物やエピソードを詰め込みすぎているために、全体を通しての構成の整理ができておらず、窮屈な印象を受けてしまった点が惜しまれる。

『湯屋の探偵』水下順人

 就職活動四十九連敗中の女子大生・山本夏美は、居酒屋で居合わせた男の映画ばりの冒険譚に引き込まれ、男の勤務先の面接に臨むことに。だが、案内された先は、銭湯だった――。
 よろず相談(時には探偵も)を請け負う銭湯という設定がユニークで、体力自慢で要領はよくないものの、まっすぐな性格の夏美、元警察官のオヤジさん、美人でクールな看板娘、常連客の斉藤さんなど、登場人物も魅力的に描かれている。そこはかとないユーモア漂う文体も読み心地がよい。夏美が「菊の湯」入社試験に挑む序盤は非常に引き込まれる。ただしその後相談に訪れた一人の少女を巡っての事件が展開していくにつれ、深刻なテーマを作品の中でうまく消化できていないこと、さらに、捜査の手段が安易でご都合主義的なことが難点として指摘され、受賞を逃した。

『ライフ&ライフ』片本晴康

 大学受験に苦しむ高校3年生の沢村孝太は、ある日を境に「1年に1度だけ目を覚ます」という不思議な現象に巻き込まれ、なぜか365日分の364日の記憶が抜け落ちる状態になってしまう。知らぬ間に大学生になり、一足飛びで、恋をし、子供が生まれ、家庭をもっていく。『思い出せ』と書かれた謎の手紙とともにはじまった奇妙な生活は、時空を超えたユニークなラブストーリーへと展開していく。あっという間に年老いた孝太は、60歳を迎えた日にある事実を知る。この衝撃をきっかけに、自分の身に起きた不思議な現象の謎が、そして切ない真相が明らかになり――。
 生きることは、苦楽とともに時間を過ごすことであり、結果だけを手に入れても、生きたことにはならない、といった人生の本質的な意味を感じさせるスケール感のある物語。整合性や文章力に未熟さが残り受賞は見送られたが、独特のタイムスリップの着眼点とカタルシスの演出に光るものを感じさせるので、今後に期待したい。

↑このページのトップへ戻る

ページトップに戻る