ポプラ社小説大賞

ポプラ社小説大賞は、第五回をもって終了いたしました。2011年度より、後継の賞として「ポプラ社小説新人賞」を実施しております。

ポプラ社小説大賞につきましては、ポプラ社が文芸書に本格的に力を入れていくにあたり、これまでにない賞を設け、意気込みを示したいという考えから創設いたしました。第五回の発表をもちまして、ひとまずその目的は達成できたと考え、「ポプラ社小説大賞」に区切りをつけ、現在は新人作家発掘に更なる力をこめる意味で、「ポプラ社小説新人賞」を実施しております。

第五回ポプラ社小説大賞

全体講評

第五回を迎えたポプラ社小説大賞は、幅広い年齢層の方から、1285作品という多数のご応募をいただきました。昨年は、いずれの賞も該当作なしという大変残念な結果であったため、第五回については締切日を含め応募の決まりに見直しをかけ、今回こそはという思いで作品の応募をお待ちしておりました。
おかげをもちまして力作を多数ご応募いただき、第一回以来となる大賞に加え、特別賞2作、奨励賞2作の計5作に賞を出すことができました。
選考においては、出席者全員が例年と同様、心から楽しめる作品、新しい才能を世に送り出したいという強い決意をもって作品に向き合いました。一次選考では、41作品を通過とし、二次選考では、14作品に絞り込みました。そして三次選考を経て、下記の最終候補7作品を決定しました。
最終候補作を選ぶ段階でも大いに議論になるほど、選考にかかわった編集者の意欲を刺激する作品が多数ありました。
最終候補作はいずれも魅力のあるもので、それぞれに推す選考者がいる状態でした。
大賞の「KAGEROU」については身辺に主題を求める作品が多いなかでより大きなテーマに挑んでいること、イメージの喚起力に独特の魅力があり、やや不十分と思われる表現箇所については充分ブラッシュアップが可能で魅力が上回るとの判断で、大賞受賞となりました。
また今回は、大賞・優秀賞の授賞には至らないまでも今後書籍化を見込めるクオリティの作品に対して、特別賞として2作品を選出、また書き手としての可能性を感じさせる2作品を奨励賞として選出いたしました。詳しくは、各作品の講評をご覧ください。

また、ポプラ社小説大賞は、創設当初の予定通り、今回の第五回をもちまして一旦区切りをつけさせていただきます。
ポプラ社小説大賞につきましては、ポプラ社が文芸書に本格的に力を入れていくにあたり、これまでにない賞を設け、意気込みを示したいという考えから創設いたしました。この5年の間には、各賞受賞作はもちろん、賞に入らなかった応募作からも魅力ある作品を世に出すことができました。
今後は新人作家発掘に更なる力をこめる意味で、新たに「ポプラ社小説新人賞」を設けることをお知らせいたします。
詳細は「ポプラ社小説新人賞応募のきまり」をご確認ください。
みなさまの渾身の作品のご応募を心よりお待ちしております。

ポプラ社小説大賞事務局
事務局長 碇 耕一
2010年11月15日

最終候補作品講評

大賞『KAGEROU』

齋藤智裕(さいとう・ともひろ)26歳・男性

職を失い、借金を重ねて身動きがとれなくなったヤスオは廃ビルの屋上から身を投げようと決意するが、黒尽くめの服に身を包んだ不気味な男に引き止められる。男は、怪しくも魅力的な取り引きをヤスオにもちかけてくる。驚愕、拒絶、受容、絶望。ヤスオの心は激しく揺さぶられる。

今日的な社会問題を取り入れながら独特の世界観を作り上げており、スピード感と同時に、哀しさとおかしみを感じられる書きぶりに引き込まれる。「人を人たらしめているものは何か」「いのちとは」という問いを刺激的な物語設定の中で意欲的に描き出している。最終候補作7作品中、挑もうとしているテーマがもっとも大きく、それをエンターテインメント作品として仕上げているところが評価された。一部やや冗漫になるところや時折見られる表現上のディテールの不足が指摘されたが、作品自体の魅力と書き手としての可能性が上回るとして受賞が決まった。

優秀賞 該当作なし

特別賞『銀色のマーメイド』

古内一絵(ふるうち・かずえ)44歳・女性

主将を不幸な理由で失い、勢いをなくした廃部寸前の弱小水泳部。主将を引きついだ中学三年生の龍一は、余計なことにかかわらずクールに学校生活を過ごすつもりだったのだが、やる気のない顧問との言い争いの中、つい「水泳部を再建して大会に出場してみせる」と啖呵をきってしまう。しかし残っているのは泳ぎもままならない部員ばかり。メンバー集めに奔走する中で出会った、人魚のように泳ぐ謎の美少女が彼らに希望をもたらすが……。凸凹だらけの子供たちが、不条理の壁にぶつかりながら成長していく青春小説。

著者独特の感性で描かれる「死生観」「大人と子供」「抱えている障害」などのエピソードが物語に奥行きを出している。魅力的な台詞とキャラクターで読み手をひきつけ、ラストの感動まで繋いでいく筆力に大きな可能性を感じられる。ただし物語の流れとしては王道で、題材の新鮮さに欠くところもあり、惜しくも優秀賞ではなく特別賞の受賞となった。

特別賞『アゲイン』

浜口倫太郎(はまぐち・りんたろう)31歳・男性

売れない漫才師だった「おとん」と同じ道を進み、ピン芸人になった戸田雄貴は、ひょんなことから、5年間離れて暮らしていた異父妹・楓と半年間暮らすことになる。才能勝負の世界でブレイクできずに焦る雄貴と、小学校で浮いている優等生の楓。そんなとき、カリスマ芸人の保坂が、若手芸人を主役にした映画をつくるという話が持ち上がる。

お笑いを通して、挫折からの再挑戦、人と人との絆が温かくコミカルに描かれている。細部にもリアリティがあり、それに支えられた登場人物像が活き活きと感じられる。読み手を楽しませるという感覚をつかんでいる。サイドストーリーに不要な部分がある一方、主人公自身のお笑いに対する取り組みや妹との関係など、核となるべき部分に十分に描ききれていないところがあることが指摘されたが、豊かな物語を紡ぐ書き手としての期待を集め、特別賞の受賞に至った。

奨励賞『仁侠ダディ』

東朔水(あずま・さくみ)26歳・女性

暴力団幹部の国府田は、鬱病を患い、自宅に引きこもって生活を送っている。そんな彼のもとに、ひとりの少女・淡が現れる。彼女は、亡くなった親友が遺言で国府田に託した一人娘だった。ふたりは戸惑いながらも、徐々に心を通わせていくが、国府田の所属する暴力団に深刻な問題が持ち上がり、淡はひとりで暮らし始める。二人の視点から、人と人とのつながりを丁寧に描き出した物語。

なにげない場面で登場人物の心情を鮮やかに感じさせ、描写も印象に残るなど、文章に魅力がある。また、それらの描写を丁寧に積み重ねることで、物語の雰囲気を豊かに感じさせることに成功している。物語の設定や大きな流れに類似の作品がすでにあること、部分的にリアリティを欠く箇所があることが難点とされたが、それぞれの場面では読み手を引き込む力があった。書き手としての将来性に期待し、奨励賞の受賞となった。

奨励賞『龍へ向かう』

中山良太(なかやま・りょうた)22歳・男性

幕末、明治新政府に対抗して立ち上げられた蝦夷新政府。北の大地に生まれたこの政府に集う剣客・今井信郎、新撰組隊士・野村利三郎、豪傑・伊庭八郎などを中心に、歴史の流れに翻弄された人間たちの生き様を丁寧に描く歴史小説。坂本竜馬を暗殺したといわれている今井信郎に焦点を当て、胸に抱える迷いや葛藤を乗り越え、心の中に立ちはだかる龍へ立ち向かい、成長していく様を描き出している。

史実を非常によく調べた上でそれを物語にすることのできる確実な筆力が評価された。一方で、史実に忠実であろうとしたせいか小説としてのダイナミズムにやや欠けるところがあり、物語を紡いでいく力がまだ未熟である点が懸念された。22歳という若さでのこの書きぶりに選考委員からの大きな期待を集め、奨励賞の受賞に至った。

『ラーメンガールズの奇跡』

田中宏昌(たなか・ひろまさ)36歳・男性

都内のお嬢様高校に通う17歳の奈波。将来の夢も目標もなく、ただ漠然と学校生活をやりすごす毎日。幼なじみで同級生の宙も奈波とおなじく将来の展望を抱けずに、二人はともにクラスで浮いた存在になっていた。そんな中、人気ラーメン店を営む奈波の父が病に倒れる。奈波は母のためにラーメン店を継ぐ意志を伝えるが、相手にしてもらえず逆に怒りをかうはめに。そんな母を行動で納得させようと奈波は文化祭でのラーメン店出店を目指す。

テンポのよい軽快な文章で読ませる。無気力な主人公とその友人、ラーメンづくりにからむ脇役などが個性的で作者のセンスを感じるが、各人の感情や行動原理が掘り下げて描かれていない。また、登場人物の設定や物語中のエピソードが都合よくちりばめられているように見受けられ、全体の構成にも難があると指摘された。作者の個性とエンターテイメントを書こうという意欲は感じたが、賞に見合う水準に達していなかったため今回は見送った。

『連翹荘綺譚』

知野みさき(ちの・みさき)38歳・女性

14歳の冬弥は、春休みに滞在することになった田舎の祖父の家で、幼い子どもの姿をした神さま・沙耶と出会い、幸福な2週間を過ごす。だが、現実の彼は400年後の未来、スペースコロニーで暮らす中学生で、春休み中、行方不明になっていたのだった。戦争で人の住めない星となった地球に田舎町があるはずはなく、冬弥の体験は夢と判断される。しかし、彼は大人になってもその体験を忘れられず、やがてそこに「帰る」決意をする。

やわらかくファンタジックな印象のSF作品。沙耶というキャラクターの魅力とゆったりと過ぎる時間が丁寧に書き込まれた前半に対し、後半は書き込みが浅く、SFとしては未来世界の細部が描けていないのが弱い。また、タイムスリップのきっかけや記憶の改ざんなど重要なポイントが説明不足で、納得のいかなさが残った。魅力的なキャラクターを生み出せる書き手なので、今後に期待したい。

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