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 第一話 だ・る・ま・さ・ん・が・こ・ろ・ん・だ

  1 恐怖のチダルマ

「そういえばさあ。莉央、知ってる?」
 塾の帰り道、純奈が聞いた。
「おとといの夜もでたんだってさ」
「でたって、なにが?」
「決まってるじゃん。あれだよ、あれ」
 湯川純奈は、わたしのおさななじみ。
 五年生になってからは、クラスも同じだし、かよっている塾も同じ。
 家だって近くだから、学校も塾も、いっしょにいくことが多いんだ。
「あれっていうのは、チダルマのことだよ」
 純奈は、わたしをこわがらせようと、わざと低い声でいう。
 けれど、棒つきのキャンディをなめながらだから、あんまり効果がなかった。
「で、チダルマがでたって、だれがいったの?」
「お姉ちゃんの高校の友だちが会ったんだってさ」
 わたしたちは、駅から家まで、線路ぞいの道を歩く。
 ここは商店街になっていて、ガード下に、いろんなお店がならんでいた。
 でも、夕暮れどきなのに、人は、ほとんど歩いていないし、しまっている店も多い。
 もともと、はやっていない商店街だったけど、駅の反対側に大きなスーパーができてからは、よけいに買いものをする人が少なくなったみたい。
 わたしが小さいころ、よくいってた駄菓子屋さんやおもちゃ屋さんも、とっくになくなっちゃったんだ。
「松尾さんって人で、部活の帰りに、近道だからって、人のいない公園のなかを歩いてたらしいんだ」
 純奈が、わたしの目をじっとみる。
「そしたら、いつのまにか、イヤな気配がして・・・・・・」
 最近、わたしの住んでいる街に、おかしなうわさが流れていた。
 それは、「夜、人気のない場所に、あやしい人があらわれる」っていうものなんだけど、その人、どう考えてもふつうじゃないの。
 目撃した人の話だど、赤い帽子、赤い服、赤いズボン、赤いくつ、つまり、全身真っ赤なかっこうをしているらしい。
 おすもうさんみたいに太っている大人なのに、身長は1メートルくらいしかない。
 しかも、ぶきみに笑っているんだって。
 で、だれが名づけたのか知らないけど、その人は「チダルマ」と呼ばれるようになっていた。
「松尾さんが足もとをみると、そこにチダルマがいたの!」
 純奈は、急に大声をあげる。
 そのせいで、わたしの心臓は、強くたたかれたみたいなショックを受けた。
「もお! やめてよ!」
「そんなこといったって、ほんとのことなんだから、しようがないじゃん」
 下から自分をみあげてニヤニヤしている真っ赤な男を想像したら、鳥肌が立ってきた・・・・・・。
 でも、話のつづきは、知りたいのよね。
「で、それから、どうしたの?」
「チダルマは、呪文をとなえはじめたらしい・・・・・・」
 チダルマは、ただぶきみってだけじゃなくて、危険でもあるの。
 近くにきたチダルマに、「だ・る・ま・さ・ん・が・こ・ろ・ん・だ」っていわれると、その人は、石のようにかたまって、動けなくなっちゃうんだ。
 もちろん、一瞬じゃなくて、ずーっとよ。
 つまり、生きたまま、マネキン人形みたいにされちゃうの。
「も、もしかして、松尾さんって人は・・・・・・」
「バカね。呪文をとなえおわる前に、逃げたわ」
「すごいね。わたしだったら、きっと足がガクガクふるえて、その場にしゃがみこんじゃうよ」
「松尾さんは、陸上部だから、足の速さには自信があったのよ」
 で、松尾さんがダッシュしたら、チダルマはついてこられなかったらしい。
(続)