浅葱色の海から真っ赤な頭の男の子がぬっと顔をだした。手には青い背に黄色がかった腹の大きな魚を持っている。相変わらずうまくとるもんだと思ったときには、赤い髪の男の子は、もう根元あたりに腰を下ろしていた。人さし指で器用に魚の左目をくり抜くと飴玉をほおばるかのように口のなかで転がす。そうして、手に持った魚をぶんと眼下に広がる海に放り投げた。黄色い魚はきれいな放物線を描きながら、浅葱色の海へと消えた。海の色が碧へと変わった。
ぼくの一番好きな、この海の色だった。
いつもよりずいぶん長くおしゃべりをしても、赤い髪の男の子は腰を上げようとしなかった。口のなかでまだ魚の目玉をしゃぶっている。
陽がだんだんと落ちて、生命力にあふれる海をセンチメンタルな背景へと変えていく。そのとき、草原をへだてた海のむこうで、ぎぃ~っという不快なブレーキ音を立てて、自転車が止まった。
赤い髪の男の子は、ちぇっという顔をすると、「じゃあナ」と消えた。
自転車を下りて、こっちへとやってくるのは、白衣を着た若い女性だ。ひざくらいまである草を踏みつけ、ふわふわと弾むように駆けてくる。
えりぃ、今日は何があったんだい? ずいぶんとうれしそうな顔をしているよ。
えりぃは、ぼくの前に立つと、「カズヤ君!」と話しはじめた。
「やっと新しい先生がくることが決まったよ。明日からだってさぁ。もう、このままずーっと医者なしで、全部あたしの応急手当てで済ますのかと思ってたよ。だって、前の先生がやめてもう二か月だよ。ホントお役所仕事はしょうがないさぁ」
えりぃはほおをふくらませて、医者のいない診療所を切り盛りしていくために看護師の自分がいかに苦労したかをとうとうと語る。でも、それは昨日までの不安に押しつぶされそうだったえりぃとはまったく違う、いつものえりぃだった。
てぃだ(太陽)のような。
えりぃの暮らすちゅら島の人たちはみんな、えりぃのことをそう思っていた。まっすぐな明るい心と言葉と笑顔で、人を元気にしてくれる。子どものころから、えりぃはそんな女の子だった。
「もうすぐ、カズヤ君の命日だね」
えりぃはそういって、目を細めた。
誰のことを想っているのか、すぐにわかる。何を想っているのか、すぐにわかる。
ぼくらが出会った十二年前の、あの夏。
ぼくがこの島に死ぬためにやってきた、あの夏・・・。
(続)