1 カブトムシの持ち方
「いいもの、見せてやるよ」
ニヤッとわらった林君に、克哉がつつっとよっていく。
「なに? なに?」
その目は全開だ。
なんだろう?
ルミはイスにすわったまま、くっと首だけのばしてみた。休み時間になってからずっとお、教科書の漢字をチェックしているミドリも、ちらっと顔を上げる。林君は、おむすびをにぎるように合わせた手を、前へつきだした。
「この中にいるんだぜ」
きょとんとした克哉に、ふふんっとほほえむ林君。
思わずイスからおしりをうかす。すると、
「なにがいるってー」
とつぜん、男子達が、どどっとよってきた。
勢いにおされ、イスへすとんとぎゃくもどり。
ちょっと・・・。
くちびるをとがらせながら顔を上げると、林君の手の中に黒い物が見えた。
あっ、カブトムシだ!
「すっげー、さわらせて」
男子達が次々に手をのばす。
おしりのわきをつままれたカブトムシは、ジタバタとあばれていた。なんだか苦しそう。
あぁ、あんな持ち方したらダメなのに・・・。
つくえを両手でおしながら、ルミは一気に立ちあがった。そこへ、
「なにさわいでるの?」
洋子がトイレからもどってきた。きょろっとあたりを見まわして、さわいでいる男子達の中へ首をつっこむ。
あのカブトムシ、だいじょうぶかな?
ルミも、後ろから顔をのぞかせた。
「おまえ、見たいの? カブトだぜ」
男子が不思議そうに、こっちをふりかえった。
「えっ、カブトムシ?」
洋子のみけんにしわがよる。
「それなら、いいや」
さっと手をふると、洋子はくるんと向きを変えた。
でもルミは、つま先にぐいっと力を入れる。
カブトムシは、どこだろう?
わずかに上がった視線の先に、ようやく黒いすがたが見えた。
カブトムシはむねのわきをつままれて、じっとしている。あれなら苦しくなさそうだ。
「克哉は、カブトの持ち方もうまいよなあ」
林君の感心したような声に、克哉ははずかしそうにわらっていた。
(続)