作家紹介
こどもの本を考える:西本鶏介
No.155読書の醍醐味を知る本
小説のすごい本が出ました。『諸国物語』(ポプラ社)。縦二十二センチ、横十六センチ、厚さ六センチ、総ページ数一一五二ページ、まるで大辞典のような重量です。どこへでも持って行ける本ではなく、机上に置いて一人静かに読まなくてはいけない本です。そのおかげで久しぶりに本当の読書の醍醐味を思いだしました。
収められているのは『諸国物語』というタイトルにふさわしく、世界の文学から選ばれた中・短篇の傑作小説二十一篇。まさに、襟を正して読むにふさわしい古典ばかりです。読んでも心に残らない小説が多い今日、改めて重厚な文学の力、表現力の豊かさを思い知らされました。いささか古風に見えても、二葉亭四迷、森鴎外、中村白葉、山本有三といった人たちの名訳は、いささかも色あせていません。大人はもちろん、中学生や高校生の読者を考え、大きな文字を使い、ゆっくりと音読できるよう総ルビがついているのもうれしい点です。三段に組まれた小さな文字の世界文学全集を、顔を近づけながら読んでいたぼくの学生時代を思うと、うらやましい限りです。
収録されている作品はチェーホフの「かけ」、ワイルドの「秘密のないスフィンクス」、トルストイの「三つの死」、ホフマンの「砂男」、ドフトエフスキーの「鰐」、キップリングの「王になろうとした男」、メルヴィルの「バートルビー」、タゴールの「もっとほんとうのこと」、ツルゲーネフの「片恋」など、人間の内面をえぐるようなさまざまな出来事が見事に描かれていて、深く胸を打たずにおきません。正直いって、ぼくも初めて読む作品が多く、とても得をしたような気がしました。「幸福の王子」、「イワンの馬鹿」、「くるみ割り人形とねずみの王様」、「ジャングル・ブック」などで子どもの文学におなじみの作家がいかにすぐれた小説家であったかを知るためにもこの本を読んでほしい。世界遺産は、もっとも身近な書物にもあることを気づかされた一冊で、一篇ずつ、じっくりと味わいながら読めば、六六〇〇円は決して高くないと思います。
西本鶏介(にしもとけいすけ)
1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)・(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

















