作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.152消えてしまった世界名作全集

かつては数年おきに大手出版社から出ていた少年少女向き世界名作全集も、ここ十年ほど姿を見かけなくなりました。大型企画として全国の書店を動員しての販売でも売れなくなってしまったのが原因です。

一九九七年、ぼくが監修・解説を担当して出版された「小学館世界の名作」も、ほとんど再版されず、店頭から消えていきました。手前味噌になりますが、全ページカラーの挿絵がついた大型の本で、絵描きも訳者もすぐれた人をそろえた全十八巻でした。『ピーター・パン』から始まって『ふしぎの国のアリス』、『ガリバー旅行記』、『オズの魔法使い』、『アルプスの少女ハイジ』、『十五少年漂流記』、『家なき子』などなど、子どもたちがぜひ読んでおくべきポピュラーな作品を集めたものです。当時としては定価も安く、見るからに豪華で親しみやすい全集だと、いまでも自負しています。もちろん、こうした全集は出版されなくなっても子ども向きの文庫の中には、名作と言われる作品も収められているので、その気になればいつでも買うことができます。とはいえ、近頃は文庫も書きおろしのエンターテインメント読み物が主流で、名作の売れゆきはかんばしくありません。そのせいかどうか、子どもばかりか、親も大学生も名作といわれる作品を読んだことのない人が多いのにおどろかされます。読み聞かせのボランティアに熱心な人にたずねても、小さい時に読んだ絵本の記憶が残っているぐらいで、まともに読んだ人はごくわずかです。

どんな名作も忘れられる運命にあるのかと思うと切なくなります。子どもの本ではありませんが、いま、池澤夏樹個人編集の『世界文学全集』が革新的な文学全集として注目を集めています。児童文学でも、こんな全集がつくれたらどんなに楽しいか。でも、子どもの全集を買い与える親なんて、もういないかもしれません。ともあれ、どんなに時代が変わっても、児童文学の古典といわれる名作ぐらいは、子どものうちに読んでおきたいものです。

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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